第二十一話:ヒロインからの手紙
わたくしたちの、筋肉と賛歌に満ちた進軍は、順調そのものでした。
兄ヴォルフ様の胃痛や、王都の混乱など、わたくしの知るところではありません。わたくしの頭の中にあるのは、ただ一つ。白氷城にいるであろう「バグ(世界の危機)」を、いかにして、最も効率的に、粉砕するか、ということだけ。
その日も、わたくしたちは、野営の準備を進めておりました。兵士たちは、巨大な丸太を軽々と運び、薪を集めています。その、引き締まった上腕二頭筋の美しいこと!
そんな、充実したトレーニング(行軍)の最中、一羽の、伝書鳩が、わたくしの元へと舞い降りてきました。
その足に結び付けられていたのは、一通の、小さな手紙。封蝋には、見覚えがありません。
「なんですの、これは?」
わたくしが、いぶかしんでいると、手紙の、可憐な文字が、目に留まりました。
それは、エリアーナからの、手紙でした。
わたくしは、封を切り、その、拙いながらも、丁寧な文字で書かれた手紙に、目を通します。
そこに書かれていたのは、わたくしの意表を突く、内容でした。
『――前略、イザベラ様。貴女様の、突然の、ご出征を、遠い王都の空の下より、案じております。わたくしには、イザベラ様のような、お力はございませんが、せめて、何か、お役に立てればと、思いまして…』
手紙の前半には、彼女なりに、図書館で必死に調べたのであろう、「長距離行軍における、効率的な栄養補給と、疲労回復法」に関する情報が、びっしりと、書き連ねられておりました。 月芋と岩塩を組み合わせることで、消耗したミネラルを補給できる、など、なかなか、どうして、的を射た内容です。
そして、手紙の、最後は、こう、結ばれていました。
『…どうか、ご無事で、お戻りください。わたくし、イザベラ様からいただいた、あの、小さな一歩を、もっと、大きなものにできるよう、毎日、ストレッチを、続けております。貴女様の、ご帰還を、心より、お待ち申し上げております』
その、たどたどしいながらも、心からの応援の言葉。
わたくしは、ふん、と、鼻を鳴らしました。
「わたくしの保護対象も、少しは成長したようですわね」
口では、そう、素っ気なく、呟きながらも。
わたくしは、その、小さな手紙を、破り捨てたりはしませんでした。
そっと、丁寧に折り畳むと、鎧の下、心臓に最も近い、内ポケットへと、大切に、しまい込んだのです。
夕日に照らされた、わたくしの横顔が、ほんの少しだけ、いつもより、優しく見えたことを。
もちろん、筋肉一筋の兵士たちは、誰も、気づいてはいませんでした。
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