第十八話:筋肉信者の誕生
エドワード王子からの、神の恵み(プロテイン)がもたらされてから、数週間。
鉄砦城の雰囲気は、もはや、以前のそれとは、全くの別物となっておりました。
かつて、兵士たちの間に漂っていた、反発や、諦観といった、負の感情は、完全に消え失せていたのです。
わたくしの、一切の妥協を許さない、地獄の指導。
そして、王子が差し入れてくれた、豊富すぎる栄養補給(プロテインと最新器具)。
その二つが、完璧な化学反応を起こし、兵士たちの肉体と、そして、精神を、根底から作り変えてしまったのです。
ある日の朝。
わたくしが、練兵場に姿を現すと、日の出前から自主トレーニングに励んでいた兵士たちが、一斉に、わたくしへと向き直りました。
そして、その場に、片膝をつくと、右手の拳で、自らの左胸…心臓の上にある、大胸筋を、力強く、二度、叩いたのです。
「「「ハイル・マッスル!!」」」
地鳴りのような、野太い声が、城の隅々にまで、響き渡る。
それは、わたくしへの、絶対的な忠誠と、筋肉への、純粋な信仰を示す、彼らが、自ら生み出した、新しい敬礼でした。
彼らの肉体は、見違えるほど、変貌していました。
分厚い胸板、丸太のような腕、そして、鋼鉄のように固く割れた腹筋。もはや、ただの兵士ではありません。一人一人が、意志を持った、完璧な彫刻作品です。
イザベラの指導と豊富な栄養補給により、兵士たちは超人的な肉体と、彼女への狂信的ともいえる忠誠心を誓う「筋肉信者」へと変貌していく。
彼らの会話も、一変しました。
「昨日の、大胸筋上部を追い込むメニュー、最高に効いたな…!」
「ああ。だが、俺は、やはり、脚の日が待ち遠しい。あの、限界を超えた先にある、パンプアップの感覚が、たまらん…!」
「分かるぞ、同志よ! 全ては、イザベラ様のお導きのおかげだ!」
もはや、わたくしが、何も言わなくとも。彼らは、自らの意志で、己の筋肉と対話し、さらなる高みを目指す、求道者となっていたのです。
わたくしは、その光景に、満足げに、頷きました。
わたくしの「筋肉布教」は、今、ここに、完璧な形で、実を結んだ。
「顔を上げなさい、我が愛すべき、筋肉信者たちよ」
わたくしは、壇上から、彼らに、静かに告げました。
「あなた方の肉体は、今、完成の域に達しました。もはや、あなた方を、止められるものなど、この世には存在しません」
兵士たちの瞳が、狂信的な、輝きを放つ。
「さあ、時は、満ちましたわ。この、鍛え上げた、完璧な肉体をもって、世界に、真の正義を、示す時が!」
わたくしの、その言葉を、合図に。
鉄砦城の、城門が、ゆっくりと、開かれていきました。
これから、始まる、聖戦のために。
最強の肉体を手に入れた、最強の軍隊が、今、ここに、誕生したのです。
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