表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【祝45000PV】転生悪役令嬢イザベラ、婚約破棄も魔法も筋肉で粉砕します!  作者: 月待ルフラン【第1回Nola原作大賞早期受賞】
第二章:悪役令嬢イザベラ、メインクエストも筋力で踏み潰しますわ!
55/118

第五話:悪役令嬢、初めての“迷い”

「どうすれば…どうすれば、よろしいのですか…!」


 その日の夜、わたくしは、一人、王城の自室で、苛立ちのままに部屋を歩き回っておりました。

 わたくしの、完璧な肉体を持て余し、その有り余るエネルギーを、どこにもぶつけることができない。こんな無力感は、生まれて初めてかもしれません。


 兄ヴォルフは、「私が、なんとかする。お前は、余計なことをするな」とだけ言い残し、王家の法務官たちとの協議へと向かいました。彼の、憔悴しきった背中が、わたくしの脳裏に焼き付いて離れません。


(わたくしのせいですわ…。わたくしが、あの御前試合で、ライネスティア家の鼻を明かしてしまったから…!)


 あの時の勝利は、確かに、胸がすくような快感でした。ですが、その結果が、これ。敵は、わたくしとの直接対決を避け、最も汚く、そして、最も効果的な方法で、反撃してきたのです。


 わたくしは、窓の外に広がる、王都の夜景を睨みつけました。

 あの、瓦版を刷った印刷所。嘘を並べ立てたという、平民の娘。そして、その背後で糸を引く、ライネスティア家の者たち。

 その全てを、今すぐ、この手で、物理的に、粉砕してしまいたい。ですが、そんなことをすれば、兄の名誉は、回復不可能なまでに、地に落ちてしまうでしょう。

 

 まさに、これこそが、わたくしが初めて直面する、「筋力では解決できない問題」。

 この世界に来てから、わたくしは、全ての障害を、圧倒的な力で、ねじ伏せてきました。破滅フラグも、魔獣も、対戦相手も。ですが、今、わたくしの前に立ちはだかっているのは、「噂」という、実体のない、見えない敵。それは、殴ることも、蹴り飛ばすこともできない、厄介な壁でした。


(乙女ゲームには、こんなイベント、ありませんでしたわ…!)


 前世の記憶をいくら探っても、攻略法は見つからない。わたくしの知るゲームは、もっと、単純で、分かりやすいものでした。好感度を上げ、ステータスを磨き、イベントをクリアすれば、必ず、ハッピーエンドが待っている。

 ですが、これは、一体、何?

 選択肢は、どこにあるのですか?

 どの敵を倒せば、このクエストは、クリアになるのですか?


 答えのない問いが、ぐるぐると、頭の中を巡ります。

 苛立ちと、焦りと、そして、自分の無力さへの、不甲斐なさ。

 わたくしは、思わず、近くにあった、装飾用の鎧兜フルプレートアーマーを、拳で殴りつけていました。


 ガッシャーン!という、けたたましい音。

 鋼鉄製の鎧が、哀れな音を立てて、床に崩れ落ちる。

 ですが、私の心は、少しも晴れませんでした。


「くっ……!」


 初めて、本気で思い悩み、苛立つ悪役令嬢の姿が、そこにありました。

 それは、ただの脳筋令嬢が、初めて、本当の意味で「考える」ことを強いられた、成長の痛みを伴う、静かな夜でした。

ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、世界観を共有する作品もあるので、そちらもご覧いただけるとお楽しみいただけるかと存じます。HTMLリンクも貼ってあります。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です。

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話を更新しています。(Xアカウント:@tukimatirefrain)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ