第五十話(エピローグ):赤き戦姫はプロテインがお好き
あの魔獣討伐演習から、数日が経ちました。
学園におけるわたくしの立場は、一変しておりました。廊下を歩けば、生徒たちが畏敬の念を込めて道を開け、囁き声が聞こえてきます。
「見て、あの方が…『赤き戦姫』様よ」
「あのグリフォンを、たった一人で…信じられない」
わたくしには、そんな新しい二つ名が付いたようです。ファンレターや、なぜか様々なメーカーのプロテインの見本品が、毎日山のように部屋に届けられました。
先日、学園の大講堂で、正式な表彰式も行われました。学園長から、これ以上ないほどの賛辞をいただき、そして、王家から下賜されたという、一振りの「宝剣」を褒賞として授与されました。
そして今、わたくしは自室で、一人、静かにその剣を眺めておりました。
きらびやかな装飾が施された鞘。抜けば、月光を宿したかのように青白く輝く刀身。歴史的にも、美術品としても、計り知れない価値がある逸品なのでしょう。
ですが、わたくしの心にあるのは、英雄としての誇りなどではありませんでした。
「はぁ……」
わたくしは、ベッドに倒れ込み、天井を仰ぎながら、心の底から、深いため息をつきました。
「これで、最大の破滅フラグを折れましたわ…」
そう。隠しボスであったあのグリフォンを討伐し、ヒロインと王子様を同時に救出したのです。これほどの功績を上げれば、ゲームのシナリオ上、わたくしが断罪されるという、あの最悪のイベントは、きっと回避されたに違いありません。
よかった。本当によかった。これで、またしばらくは、安心して筋トレに励むことができますわ。
わたくしは、安堵と共に、すっくと立ち上がりました。そして、改めて、目の前の宝剣を手に取ります。
ひんやりとした感触。ずしりとした重み。
わたくしは、それを、数回、空中で振ってみました。
「ふむ…」
素晴らしい重心バランスですわ。グリップの感触も、実に手に馴染む。魔力を通しやすいように設計されているのか、振り抜いた時の安定感が、そこらの鉄の塊とは比べ物になりません。
わたくしは、にやり、と笑みを浮かべました。
「ええ、ええ。これは、最高の『ダンベル』ですわね!」
わたくしは、その国宝級の宝剣を、片手で軽々と持ち上げると、早速、上腕二頭筋を鍛えるためのアームカールを開始しました。
「いち、にっ、さん、しっ…!いいですわ!この絶妙な負荷!実によく筋肉に効きますわ!」
学園を救った英雄、「赤き戦姫」。
その実態は、ただひたすらに、己の信じる「ゲーム」からの生存を目指す、一人の脳筋令嬢に過ぎませんでした。
そして――
彼女のその壮大な勘違いが、やがて王国の運命そのものを大きく揺るがすことになることを、まだ誰も知らない。
第1章終了です。ここまでお読みいただきありがとうございました。
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