第四十七話:覚醒!制御された破壊
わたくしは、大地を蹴りました。
狙うはただ一つ、天に座すあの忌々しい翼を持つ獅子。
もはや、わたくしの動きを阻むものは何もありません。引き裂いたドレスは風をはらみ、わたくしの闘志を加速させる翼となりました。
「おおおおおっ!」
雄叫びと共に、わたくしはグリフォンの懐へと飛び込みます。ですが、その巨体から放たれる混沌のオーラは、まるで分厚い壁のようにわたくしの行く手を阻む。大戦斧を振るっても、その手応えは鈍く、まるで粘度の高い水の中を掻き回しているかのようでした。
「クァァッ!」
グリフォンは、わたくしの抵抗をあざ笑うかのように、その鋭い爪を振り下ろしました。
わたくしは咄嗟に斧を盾にしてそれを受け止めますが、凄まじい衝撃に体ごと数メートスも吹き飛ばされてしまいます。
「ぐっ…!」
受け身を取って体勢を立て直すも、体は既に悲鳴を上げていました。強い。あまりにも、強すぎる。これが、伝説級の魔獣。わたくしの筋力も、技も、その圧倒的な存在の前では、まるで子供の戯れのようです。
絶望的な戦力差。
じりじりと、しかし確実に、わたくしは追い詰められていきました。
(このままでは…!)
焦りが、恐怖を呼び覚まします。また、あの時のように、力が暴走してしまうかもしれない。その危惧が、わたくしの動きを、ほんのわずかに、しかし致命的に鈍らせました。
その、一瞬の隙。
グリフォンは見逃しませんでした。
翼を広げ、混沌の魔力を凝縮させた黒いブレスを、わたくしに向かって放ったのです。
(――避けられない!)
死を覚悟した、その刹那。
わたくしの脳裏に、二つの声が響き渡りました。
――力は、悪くない。イザベラの、心が、決める。
――『心の中の猛獣は、檻ではなく、意志でこそ乗りこなせ』
リョーコ殿の、静かな眼差し。
父上の、厳しくも温かい教え。
そうだ。わたくしは、間違っていた。
この力を恐れ、檻に閉じ込めようとしていた。違う。わたくしがすべきことは、この荒れ狂う猛獣の背に跨り、手綱を握ること。
わたくしは、迫りくる死のブレスを前に、目を閉じました。
そして、意識を、自らの内側――魂核へと深く、深く沈めていきます。
そこには、いました。灼熱の魔力となって荒れ狂う、わたくしの「心の中の猛獣」が。
ですが、もう、わたくしは逃げません。
(来なさい。あなたを、乗りこなしてあげますわ)
わたくしは、その猛獣に向かって、揺るぎない「意志」の手綱を伸ばしました。
心臓の鼓動を、リズムに変える。
呼吸を、循環の起点とする。
吸って――溜めて――吐き出す。
その循環の中で、荒れ狂う魔力は、徐々に、しかし確実に、わたくしの意志に従い始めました。
目を開けた時、目の前には、黒い破滅の光が迫っていました。
ですが、もう、遅くはありません。
わたくしは、大戦斧を構え、その切っ先に、制御下に置いた全ての魔力を、一点へと集束させました。
それは、もはや暴走する拡散の熱波ではない。
破壊のためではない、「守る」ための、完璧に制御された一撃。
「これが――わたくしの『意志』ですわッ!」
わたくしが放ったのは、灼熱の光線でした。
それは、黒いブレスを正面から貫き、霧散させ、一切の勢いを衰えさせることなく、一直線に、天に座すグリフォンの胸元へと突き刺さったのです。
轟音も、爆発もありません。
ただ、静かに。
光が、闇を貫いただけ。
ですが、その一撃は、確かに、混沌の王の動きを、完全に止めていました。
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