第四十三話:石版(攻略本)の導き
森の中へと足を踏み入れたわたくしたちは、他のチームのように手当たり次第に魔獣を探すことはしませんでした。わたくしには、この演習を完全勝利へと導く、絶対的な指針があるのですから。
「みなさん、こちらですわ」
わたくしは、懐から円形にくり抜いた石版の欠片――すなわち「究極攻略本」を取り出しました。そして、学園から支給された公式の地図と並べ、その二つを慎重に(わたくしなりに)照合します。
「ふむ…この攻略本によれば、最も高得点な魔獣は、この区画に集中しているようですわね」
わたくしは、石版の中央に描かれた、あの禍々しい魔獣の図が描かれているあたりを指し示しました。これが、このゲームにおける「隠しボス」の生息地に違いありませんわ。
すると、わたくしの後ろから、エリアーナがおずおずと声をかけてきました。
「あ、あの…イザベラ様…?学園から指定されたわたくしたちのルートは、あちらの道のはずですが…。そちらは、『未踏の古代遺跡』があるとかで、立ち入り禁止区域に…」
エリアーナが指差す公式地図には、確かに、わたくしが向かおうとしている方向に「危険・進入禁止」の文字が記されておりました。
「エリアーナ。あなたのその慎重さは美徳ですわ。ですが、甘いですわね」
わたくしは、にやりと笑って彼女に言いました。
「『立ち入り禁止』とは、ゲームの世界では何と翻訳されるかご存知?それは、『隠しダンジョン』、あるいは『高難易度クエスト』の入り口という意味ですのよ。凡百のプレイヤーを遠ざけ、真の強者のみを招き入れるための、開発者からの挑戦状ですわ!」
「そ、そうですの…?」
「ええ、そうですわ!この攻略本は、その挑戦を受けるための、いわば『招待状』。支給された地図よりも、遥かに高次元の情報が記されているのです。わたくしたちは、この superior intelligence(優れた情報)に従うまで!」
わたくしの完璧な解説に、クレメンティーナとダフネが「さすがですわ、イザベラ様!」「わたくしたちには見えない道が見えていらっしゃるのですね!」と、尊敬の眼差しを向けてきます。リョーコ殿も、静かにこくりと頷き、わたくしの判断に全幅の信頼を寄せてくれているようですわ。
「さあ、決まりですわね!これより、我々は正規ルートを外れ、隠しダンジョンへと向かいます!」
わたくしの号令一下、チーム・イザベラは、他の生徒たちが誰も踏み入れない、森の奥深くへと進路を取りました。進むにつれて、木々は鬱蒼と生い茂り、獣道すら途絶え、空気が重くなっていくのを感じます。
その、時でした。
グオォォォォォン…!
どこか遠くから、しかし、腹の底に響くような、凄まじい咆哮が聞こえてきたのです。それは、今までに聞いたこともない、凶悪で、混沌とした魔獣の鳴き声。
エリアーナが「ひぃっ」と悲鳴を上げ、クレメンティーナたちが緊張した面持ちで武器を構えます。
ですが、わたくしは、その咆哮を聞いて、歓喜に打ち震えておりました。
「聞こえましたか、みなさん!今の声!間違いありませんわ、あれこそが隠しボスの雄叫び!この攻略本の導きは、正しかったのですわ!」
わたくしは、大戦斧を担ぎ直し、声がした方向――すなわち、隠しボスが目覚めた遺跡の中心部を、まっすぐに見据えました。
「目標、補足!これより、我がチームは、全力で目標地点へと突入します!遅れないでくださいましよ!」
わたくしは、偶然にも、この森で最も危険な場所へと、仲間たちを導いていたのです。もちろん、そんなこととは露知らずに。
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