第四十話:決戦の朝
魔獣討伐演習、その日の朝が来た。
学園の集合広場は、武装した生徒たちの熱気と、緊張感が入り混じった独特の空気に満ちていた。
その広場の片隅で、チーム・イザベラは、主を失ったかのように静まり返っておりました。
クレメンティーナとダフネは、心配そうにわたくしの部屋の方向を何度も振り返り、エリアーナは、これから始まるであろう戦いを思ってか、小さく体を震わせています。
ただ一人、リョーコ殿だけが、腕に巻かれた包帯を気にする様子もなく、静かに目を閉じ、その時を待っていました。
あの日、わたくしが仲間を傷つけてからというもの、チームとしての合同訓練は行われていません。わたくしが、それを拒絶したからです。リーダーを失ったチームの士気は、決して高いとは言えないでしょう。
その、重苦しい沈黙を破ったのは、わたくし自身でした。
ゆっくりと開かれた扉の先に、わたくしは立っていました。
その手に、あの日以来、一度も触れることのなかった大戦斧を携えて。
四人の視線が、一斉にわたくしへと注がれます。
わたくしは、まっすぐに彼女たちの元へと歩み寄りました。そして、四人の前で深く、深く頭を下げたのです。
「ご迷惑をおかけしましたわね」
それは、心からの謝罪の言葉でした。わたくしの未熟さと弱さが、彼女たちを不安にさせ、危険に晒してしまったことへの、償いの言葉。
顔を上げると、クレメンティーナとダフネの瞳が、驚きと喜びで潤んでいました。エリアーナは、ただ、呆然とわたくしを見つめています。
そして、リョーコ殿。彼女だけが、全てを理解したように、静かに、そして力強く頷いてくれました。その瞳が「おかえりなさい」と語っているようでした。
わたくしは、彼女たち一人一人の顔を見つめ、そして、愛用の大戦斧を、今度は決して手放さぬよう、力強く握りしめました。
恐怖は、まだあります。ですが、今のわたくしには、乗りこなすべき意志がある。守るべき仲間がいる。
迷いは、もう、ありませんでした。
わたくしは、わたくしのチームに向かって、晴れやかな、そして力強い声で、高らかに宣言しました。
「参りましょう、我々の戦場へ!」
その言葉を合図に、止まっていた時が、再び動き出しました。
「はい、イザベラ様!」と、クレメンティーナとダフネの声が重なります。エリアーナは、まだ戸惑いながらも、こくりと頷きました。リョーコ殿は、静かに立ち上がり、わたくしの隣に並びます。
わたくしたち、チーム・イザベラは、再び一つになったのです。
わたくしを先頭に、我々は、演習の開始地点へと、堂々と歩き出しました。
その足取りに、もう、一切の迷いはありませんでした。
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