第三十三話:エリアーナの成長?
学園祭の門の制作は、兄様との見事な連携(と、わたくしの圧倒的な筋力)により、順調に進んでおりました。今日は気分転換も兼ねて、図書館で古代の建造物に関する資料でも眺め、騎士像のデザインの参考にしようと思い立ったのです。もちろん、わたくしが参考にするのは、そこに描かれた英雄たちの肉体美ですけれど。
図書館へ続く廊下を歩いていると、前方に小さな人影が見えました。
ゲームのヒロイン、エリアーナですわ。
彼女は、自分の体の幅ほどもある分厚い本を、胸に何冊も抱え、ふらふらと覚束ない足取りで歩いておりました。今にも、その本の山ごと派手に転んでしまいそうです。
(ああ、いけませんわ!ヒロインがそんなことで怪我でもしたら、ゲームオーバーに繋がりかねません!)
わたくしは彼女を救うべく、一歩踏み出そうとしました。わたくしが手を貸せば、あの程度の本の山など、小指一本で運んで差し上げられますものを。
ですが、その必要はありませんでした。
エリアーナは、一度立ち止まると、ふぅ、と小さな息をつきました。そして、以前わたくしが無理やり教え込もうとした、ツェルバルク流の基本姿勢――腰を落とし、腹筋に力を込め、背筋を伸ばす――を、おそるおそる実践したのです。
すると、どうでしょう。
あれほど不安定だった本の山が、彼女の腕の中でぴたりと安定したではありませんか。
エリアーナは、自分の力でしっかりと本を抱え直し、先ほどよりずっと安定した足取りで、再び歩き始めました。その口元には、ささやかですが、確かな自信に満ちた笑みが浮かんでいます。
「ほう。やりますわね、エリアーナ」
わたくしが声をかけると、彼女の肩がびくりと跳ね上がりました。わたくしの顔を見て、一瞬、また地獄のトレーニングが始まるのかと怯えたような顔をしましたが、すぐに安堵の表情に変わりました。
「あ、イザベラ様…!」
「その教科書の束、以前のあなたなら、途中で全てぶちまけておりましたわね」
わたくしがそう指摘すると、エリアーナははっとしたように、自分の腕の中の本の重みを再確認しました。そして、はにかむように微笑みます。
「はい…!なんだか、前よりも、体が軽くなったような気がして…。これも、イザベラ様が教えてくださった、あの…その…お、おかげ、なのでしょうか…?」
わたくしは胸を張り、満足げに頷きました。
「当然ですわ」
わたくしは、誇らしげに彼女に告げました。
「あれは、わたくしのツェルバルク流トレーニングの、ほんの導入の導入に過ぎませんわ。ですが、基礎体力こそが全ての基本。か弱いわたくしの保護対象が、その偉大なる第一歩を踏み出せたのは、大きな成果ですわ」
わたくしの力強い言葉に、エリアーナはぽかんとしておりましたが、やがて、その顔にぱあっと明るい花が咲きました。
「は、はい!ありがとうございます、イザベラ様!」
彼女は、今までで一番大きな声でそう言うと、しっかりと本を抱えたまま、図書館の方へと歩いていきました。その背中は、以前よりも少しだけ、たくましく見えましたわ。
ふふ、わたくしのヒロイン育成計画も、順調に進んでいるようですわね。この調子で、彼女のステータスをどんどん上げていかなければ。
わたくしは満足感に浸りながら、己の指導者としての才能に、改めて惚れ惚れするのでした。
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