第三十一話:シルヴィアの協力
「兄様!その槌の振り方では、広背筋に負荷が集中しませんわ!もっと体全体をバネのようにしならせて!」
「これは釘を打っているだけだ!筋肉を鍛えているわけではない!」
学園祭の門の制作現場では、今日もわたくしと兄様の活気ある声が響き渡っておりました。わたくしが組み上げた骨組みに、兄様が精密な装飾を施していく。衝突は絶えませんが、その連携はもはや阿吽の呼吸と言えましょう。
そんなわたくしたちの元へ、優雅な足取りで近づいてくる人影がありました。
「ごきげんよう、イザベラ様、ヴォルフ様。少し休憩になさってはいかが?」
ドルヴァーン家のご令嬢、シルヴィアでしたわ。彼女は微笑みながら、手にしたバスケットからハーブティーと焼き菓子を取り出してくれました。彼女の淹れてくれるお茶は、森の香りがして、荒んだ心(の筋肉)を癒してくれますの。
「まあ、シルヴィア!ありがとう!ちょうど糖分が枯渇しておりましたの!」
「お構いなく。お二人の素晴らしい共同作業、学園でも噂になっておりますわよ」
わたくしは早速焼き菓子を頬張りながら、作業台の上に広げていた石版の欠片――すなわち「攻略本」を指し示しました。
「ふふ、この攻略本のおかげで、わたくしのモチベーションは最高潮ですのよ!」
「まあ、これが例の…」
シルヴィアは興味深そうに石版を覗き込みました。彼女はわたくしのように筋肉で物事を判断するのではなく、知性や観察力に優れた方。きっと、この攻略本の真価を、わたくしとは違う角度から見抜いてくださるに違いありませんわ。
彼女の視線が、石版に刻まれた図の上を滑ります。そして、わたくしが「弱点」だと確信している紋様の一つで、ぴたり、と止まりました。
「イザベラ様…」
シルヴィアは、真剣な面持ちで顔を上げました。
「この紋様…どこでこれを?」
「? この攻略本に描かれていましたけれど。確か、魔獣の心臓あたりにありましたわ。クリティカルポイントに違いありませんわね」
わたくしの完璧な分析に、しかしシルヴィアは首を横に振りました。彼女は震える指で、その古い紋様をそっと撫でます。
「いいえ、違いますわ。これは…わたくしたちドルヴァーン家に、それもごく一部の者だけに伝わる、古代の紋様です」
「まあ!」
「これは『翠の戒め』と呼ばれる、自然の力を暴走させないための封印の印。一説には、遥か昔、森そのものを喰らおうとした強大すぎる精霊を、当時の当主が封じ込めた際に用いたものだと…」
古代の森の精霊を封じた印。
なるほど、なるほど!わたくしの中で、全ての情報がクリアに繋がりましたわ!
「つまり、こういうことですのね、シルヴィア!」
わたくしは彼女の手を取り、力強く言いました。
「この演習のボスは、森の力を使う『自然属性』!そして、この『翠の戒め』こそが、その力を封じるための『特攻属性』なのですわ!なんと!これでダメージは三倍、いえ、五倍は固いですわね!ありがとう、シルヴィア!あなたのその深い知識、わたくしの筋肉と同等の価値がありますわ!」
「え…?あ、はい…?」
きょとん、とするシルヴィア。彼女の言わんとすることと、わたくしの解釈が微妙に、あるいは根本的にずれているのかもしれませんが、結果は同じです。わたくしは、勝利への新たな鍵を手に入れたのですから!
「もしよろしければ、イザベラ様。この紋様について、我が家の書庫でさらに詳しく調べてみましょうか?何か、もっとお役に立てることがあるかもしれませんわ」
「まあ、本当ですの!?あなたは最高の頭脳ですわ、シルヴィア!」
わたくしは彼女と固い握手を交わしました。
筋肉担当のわたくし、頭脳担当のシルヴィア。我々は、最強のチームになれるに違いありませんわ!
こうして、シルヴィアという心強い協力者を得て、わたくしの「破滅フラグ粉砕計画」は、また一歩、完璧な勝利へと近づいたのでした。
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