第二十二話:陰謀の断片
「――話になりませんわ!」
わたくし、イザベラ・フォン・ツェルバルクは、学園の訓練場裏にあるお気に入りの大岩(推定重量5トンア)を片手で受け止めながら、溜め息を禁じ得ませんでしたわ。
先日、来る魔獣討伐演習のためにわたくしが提出した演習計画書――すなわち「わたくしが単騎で敵陣を突破、残りは各自、殲滅せよ」という、完璧かつ効率の極みと言うべき作戦案は、教官にあっさりと却下されてしまいましたの。 理由は「協調性と思いやりの欠如」だそうですけれど、意味が分かりませんわ。わたくしが全ての脅威を排除した後の安全な場所で、残敵掃討という名のウォーキングに興じるだけの簡単なお仕事ですのに。これ以上の思いやりがどこにあるというのでしょう。
「やはり、脳まで筋肉でできている方々には、わたくしの合理的思考は理解できないようですわね…」
大岩を天に放り投げ、落ちてきたところを拳で粉砕。降り注ぐ岩片を浴びながら、わたくしは新たなトレーニングメニューに思考を巡らせます。チームの連携が重要と言うのであれば、わたくしが他の四人分の働きをすれば済む話。つまり、いつもの五倍のトレーニングを積めば良いのですわ!ああ、なんて単純明快なのでしょう!
そうと決まれば、まずは演習区域の事前調査ですわね。高効率なトレーニングのためには、地形の把握は基本中の基本。わたくしは汗を拭うのもそこそこに、演習区域に指定されている学園裏の森へと続く小道へと足を踏み入れました。
その時でしたわ。
茂みの奥から、ひそひそと話し声が聞こえてきたのは。
(…このマナの残り香…どこかで嗅いだことがありますわね)
俗に「マナ臭」と呼ばれる、魔術行使後に残る独特の香り。 それは、先日わたくしに宣戦布告してきた、かつての協力者ラザルスのものと酷似していましたの。 彼の計画の邪魔だとか何とか言っていましたけれど、つまりはわたくしの圧倒的すぎる力に嫉妬し、演習の場で一泡吹かせようと企んでいるに違いありませんわ。
わたくしは即座に気配を殺し、木々の影に身を潜めました。ツェルバルク家に伝わる「気配遮断術」は、己の筋肉の躍動すら自然と一体化させる高等技術。今のわたくしは、いわば森そのものですわ。
「――本当に、あの『石版』があの場所に?情報に間違いはないだろうな」
「ああ。ラザルス様自らが古代文献を解読されたのだ。演習区域の森、その奥にある古代遺跡…その最深部に眠っていると」
「しかし、警備はどうする。演習中は教官や他の生徒の目もある。下手に動けば…」
「問題ない。計画の鍵は、あくまで『石版』だ。我々は演習の混乱に乗じてそれを回収するだけでいい。あれさえ手に入れば、ラザルス様の計画は成就する」
物陰から聞こえてくる会話は断片的でしたが、わたくしの超人的な聴覚が全ての単語を正確に拾い上げていました。
(演習区域…古代遺跡…『石版』が計画の鍵…?)
なるほど、なるほど。
わたくしは口角がベンチプレスを持ち上げるように、ぐっと吊り上がるのを感じましたわ。
つまりは、こういうことですのね。
あのラザルス、正攻法ではわたくしに勝てないと悟り、姑息な手段に打って出たのですわ。
「演習区域の古代遺跡」…それは、ゲームで言うところの隠しダンジョン!
そして、そこに眠る「石版」…それは、出現する魔獣の弱点や、高得点を叩き出すための特別ルールが記された、いわゆる「攻略本」なのでしょう!
「計画の鍵」とは、その攻略本さえ手に入れれば、演習でわたくしよりも優位に立てると、そういう算段ですのね!
「ふ、ふふ…あはははは!面白い!面白いですわ、ラザルス!」
わたくしとしたことが、思わず声を出して笑ってしまいました。わたくしへの挑戦状を、こんな手の込んだ形で叩きつけてくるとは!実に回りくどくて、それでいて全力。嫌いではありませんわ、そういうの。
「よろしいでしょう。その挑戦、受けて立ちますわ!」
茂みから姿を現したわたくしに、ラザルスの部下らしき男たちがぎょっと目を見開いて硬直しています。まあ、無理もありませんわね。突如として森そのものが人の形を成したように見えたことでしょう。
わたくしは彼らに向かって、びしっと人差し指を突きつけ、高らかに宣言しました。
「その『石版』とやら、わたくしが先に頂戴いたしますわ!せいぜい、わたくしがクリアした後のダンジョンで、おこぼれでも探すことですのね!」
「ひっ…!?」と短い悲鳴を上げて、蜘蛛の子を散らすように逃げていく男たち。その背中に向かって、わたくしはさらに言葉を続けます。
「ご忠告どうもありがとう!おかげで、最高のトレーニングメニューが思いつきましたわ!」
そうですわ。まずは夜間の遺跡潜入訓練。そして、古代文字読解のための速読訓練。さらには、石版を物理的に確保するための引っこ抜き訓練!ああ、忙しくなりますわ!
ラザルスからの挑戦状(という名のヒント)のおかげで、わたくしの魔獣討伐演習は、ただの筋肉披露会から、知的かつスリリングな宝探しへとランクアップしましたの。彼の期待に応えるためにも、まずは今夜、あの遺跡とやらにご挨拶に伺うとしましょう。もちろん、誰にも見つからないように、全力のステルス状態で、ですわ!
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