第二十一話:実践的魔獣解体ショー
わたくしが、学園祭における我がクラスの出し物の責任者に任命された、その翌日。
教室の空気は、まるで、わたくしとの決闘を控えたエーベルハルト様のように、緊張で張り詰めておりました。
学級委員長が、震える声で、わたくしの名前を呼びます。
「え、えー…それでは、これより、学園祭実行委員長である、イザベラ・フォン・ツェルバルク様より、クラスの出し物に関する、企画のご発表を、いただきます…」
クラス中の視線が、わたくし一人に突き刺さる。ええ、結構なことですわ。将軍とは、常に、兵士たちの期待と不安を、一身に背負うものなのですから。
わたくしは、愛用の戦斧(訓練用)を肩に担いだまま、ゆっくりと教壇へと向かいました。
そして、持参した巨大な羊皮紙を、黒板に、バサリ、と広げます。
そこには、わたくしが昨夜、徹夜で書き上げた、完璧な計画図が描かれておりました。
「皆様!来るべき学園祭――すなわち、魔獣討伐演習の前夜祭において、我々のクラスが披露すべき出し物は、ただ一つ!」
わたくしは、教鞭の代わりに、戦斧の柄で、羊皮紙の一点を、トン、と指し示しました。
「それは、力の証明!すなわち、『実践的魔獣解体ショー』ですわ!」
その瞬間、教室が、水を打ったように静まり返り、次の瞬間、これまで聞いたこともないような、絶叫と混乱の坩堝と化しました。
「ま、魔獣!?」
「解体ショーですって!?」
数人の令嬢が、その場で、ぱたり、と気を失っております。全く、軟弱ですわね。
わたくしは、そんな生徒たちの反応を、一喝で黙らせました。
「お黙りなさい!これは、ただのショーではございません。来るべき決戦を前に、我々の力を内外に示し、敵対勢力(ラザルス様のことですわ)の戦意を削ぐための、高度な心理戦なのです!」
わたくしが、熱弁を振るっておりますと、学級委員長が、顔面蒼白で、おずおずと、手を挙げました。
「あ、あの、イザベラ様…!学園祭は、そのような、物騒なものでは…!もっと、こう、喫茶店ですとか、演劇ですとか…その、平和的な催しが、通例となっておりますが…」
「喫茶店?演劇?」
わたくしは、心底、理解に苦しみました。
なんですの、その、軟弱な出し物は。戦いの前に、おままごとでもしろと、そう、おっしゃるのですか。
ふん。どうやら、このクラスの者たちには、まだ、真のエンターテインメントというものが、お分かりにならないようですわね。
「あなたたちには、まだ、真の『力』がもたらす、興奮と感動が、理解できないようですわね。良いでしょう、このわたくしが、その神髄を、今、この場で見せてさしあげます!」
わたくしの視線が、教室の隅に飾られていた、装飾用の、美しい騎士の甲冑を捉えました。確か、建国の英雄が身につけていたとかいう、由緒正しいレプリカですわね。重さは、ざっと100キロ グアほどございましょうか。
わたくしは、その甲冑へと、ゆっくりと歩み寄ると、その兜の部分を、鷲掴みにいたしました。
そして、
バキィッ!
わたくしの、完璧に鍛え上げられた握力の前には、鉄の兜など、熟れた果実も同然。無慈悲な破壊音と共に、兜は、見るも無残な形に、ひしゃげてしまいました。
「このように!」
わたくしは、ひしゃげた兜を、高々と掲げ、宣言いたしました。
「圧倒的なパワーは、見る者の魂を、根こそぎ鷲掴みにするのです!これこそが、最高のエンターテインメント!これ以上の出し物が、ございまして?」
教室は、先程以上の、完全な沈黙に支配されておりました。
生徒たちも、授業を担当していた老教授も、皆、まるで金縛りにでもあったかのように、口を半開きにしたまま、動けずにいる。
ふふふ。どうやら、わたくしの、その、あまりに完璧なプレゼンテーションに、彼らも、言葉を失ってしまったようですわね。
ええ、結構なことですわ。
これで、クラスの意見も、まとまりました。
わたくしたちの出し物は、『実践的魔獣解体ショー』に、決定ですわ!
全ては、計画通り!
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