第二十話:学園祭の準備、開始ですわ!
父ゴードリィから賜った、この、見事な戦斧。
わたくしは、自室で、その冷たく、そして、頼もしい鉄の感触を、うっとりと楽しんでおりました。重さ80キロ グア。その絶妙な重量バランスは、わたくしの全身の筋肉に、心地よい緊張感を与えてくれます。
「ふふふ…これさえあれば、魔獣討伐演習など、恐るるに足りませんわ」
そうですわ。ラザルス様との決戦の舞台は整いました。
わたくしは、来るべき戦いに備え、早速、作戦会議を招集いたしました。
場所は、わたくしたち「国際筋肉同盟」の聖地、第一訓練場。メンバーは、もちろん、わたくしと、忠実なる弟子たち、そして、心の友リョーコです。
「お聞きなさい、あなたたち!本日の議題は、魔獣討伐演習における、我々の必勝戦略についてですわ!」
わたくしが高らかに宣言すると、クレメンティーナとダフネが、ゴクリ、と喉を鳴らしました。
「まず、基本陣形ですが、わたくしが単騎で前線に立ち、敵の陣形を中央から突破。その隙に、あなたたちは、左右から回り込み、逃げ惑う魔獣の残党を、一人一匹、確実に仕留める。良いですわね?」
「「は、はいぃ!」」
「リョーコは、その驚異的な身軽さを活かし、遊撃手として、わたくしの死角を補佐なさい。よろしいですわね?」
わたくしがそう言うと、リョーコは、こくり、と力強く頷き、その場で、数回、華麗なバク転を披露してくれました。ええ、言葉は通じずとも、魂で理解しあえているようですわ。
「では、早速、連携の訓練を開始いたします!まずは、わたくしの必殺の一撃を、あなたたちが、いかにして避けるか、そのシミュレーションですわ!」
わたくしは、愛用の戦斧を、ブン、と大きく振りかぶりました。
その、あまりの迫力に、クレメンティーナとダフネは、「ひぃぃ、死んでしまいますわ!」と、その場にへたり込んでしまいました。全く、情けない。
わたくしが、弟子たちの根性を叩き直そうとしていた、その時でした。
一人の、生真面目そうな男子生徒が、分厚い書類を抱えて、こちらへやってきました。確か、わたくしのクラスの、学級委員長だったはずですわね。
「あ、あの、イザベラ様…!今、よろしいでしょうか?」
「何ですの?わたくしは今、軍事演習の準備で、忙しいのですが」
「は、はい、存じております!その件で、ご相談が…!」
学級委員長は、おずおずと、一枚の書類を差し出しました。
そこには、『学園祭・クラス対抗出し物に関するアンケート』と書かれております。
「学園祭…?ああ、あの、魔獣討伐演習の前に行われるという、前夜祭のことですわね」
「え、あ、はい、まあ…」
「それで、わたくしに、何のご用ですの?」
「それが…その…」
学級委員長は、言いにくそうに、視線を泳がせます。
「クラスの皆が、その、満場一致で…今年の、わがクラスの出し物の、責任者に、イザベラ様を、推薦しておりまして…」
「…責任者、ですって?」
ほう?わたくしを、この決戦における、総大将に、と。
クラスの者たちも、ようやく、真のリーダーが誰であるか、理解したようですわね。
「よろしいでしょう!その大役、このイザベラ・フォン・ツェルバルクが、謹んでお受けいたしますわ!」
わたくしが、戦斧を肩に担ぎ、快諾すると、学級委員長は、心の底から安堵した、という顔で、深々と頭を下げました。
「あ、ありがとうございます!では、企画書のご提出、お待ちしております!」
彼は、嵐のように去っていきました。
ふふふ。わたくしのリーダーシップが、認められた瞬間ですわね。
「お聞きなさい、あなたたち!わたくしは、この度の演習における、クラス代表の指揮官に任命されました!」
「「さ、さすがですわ、イザベラ様!」」
「こうしてはいられません!早速、最高の『出し物』を企画し、わたくしたちの力を、学園中に見せつけてやるのです!」
わたくしは、企画書と書かれた羊皮紙に、力強い文字で、こう書きつけました。
『演目:ツェルバルク流・実践的魔獣解体ショー ~筋肉は、美しく、そして残酷に~』
ええ、そうですわ。
これこそが、わたくしたちの力を示し、ラザルス様の度肝を抜く、最高の、デモンストレーション。
わたくしの、完璧な計画に、一点の曇りもございませんわ!
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次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です。
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