第十四話:日出る国のトレーニング
わたくしの、輝かしい破滅フラグ回避計画に、海洋州からの留学生リョーコという、心強い仲間が加わった翌日の午後。
わたくしたちは、再び、あの第一訓練場に集っておりました。
メンバーは、わたくし、専属侍女ブリギッテ、そして、わたくしの弟子である、クレメンティーナ、ダフネ、リョーコの三名。
名付けて、「国際筋肉同盟」の、記念すべき第一回合同訓練ですわ!
「はぁ…はぁ…イザベラ様…もう、準備運動の腕立て伏せ百回で、腕が2センチスも太くなった気がいたします…」
「わたくし、昨日新調したドレスが、もう入りません…」
クレメンティーナとダフネが、開始わずか15分で、地面に突っ伏しております。情けない。
「二人とも、お黙りなさい!今日は、リョーコから、東方の国に伝わる、秘伝のトレーニング法を学ぶのです。遅れを取ったら、夕食のプロテインは抜きですわよ!」
「「それだけはご勘弁を!」」
わたくしたちの視線の先で、リョーコは、すっ、と息を吸い込むと、まるで水が流れるような、しなやかな動きで、奇妙なポーズをとってみせました。片足で立ち、両腕を大きく広げ、微動だにしない。その姿は、一羽の、優雅な鳥のようですわ。
「(…ほう)」
わたくしは、感心いたしました。
一見、静止しているように見えますが、彼女の全身の筋肉は、完璧なバランスを保つために、常に、微細な緊張と弛緩を繰り返している。これは、体幹の深層筋を、極限まで追い込むための、極めて高度な静的トレーニング!
「素晴らしいですわ、リョーコ!あなたのお国のトレーニングは、実に、合理的ですわね!」
わたくしが賞賛すると、リョーコは、にこりと笑って、今度は、わたくしに手招きをいたします。
どうやら、二人一組で行う、ストレッチのようですわね。
「よいでしょう!あなたのお手並み、拝見いたしますわ!」
わたくしは、リョーコの前に立つと、彼女の指示通り、背中合わせで立ち、互いの腕を組みました。
「では、参りますわよ」
わたくしが、ぐっと、背中の筋肉に力を込めて、彼女の体を持ち上げようとした、その瞬間。
リョーコは、わたくしの力を利用し、くるりと、空中で体勢を変えると、わたくしの背中の上で、完璧なバランスで、逆立ちしてみせたのです。
「なっ…!?」
その、予測不能な動きと、背中にかかる、彼女の体重、およそ45キログア。
わたくしは、思わず、体勢を崩してしまいました。
「きゃっ!」
わたくしの体が、前方へと、倒れ込む。
その、刹那。リョーコは、わたくしの背中を飛び降りると、信じられないほどの俊敏さで、わたくしの体の前に回り込み、倒れそうになるわたくしを、その細い腕で、しかし、力強く、支えました。
ドン。
気がつけば、わたくしは、リョーコに、壁際に追い詰められるような形で、至近距離で見つめ合っておりました。いわゆる、「壁ドン」というやつですわね。
彼女の、真剣な黒い瞳と、わたくしの瞳の距離は、わずか10センチス。訓練で火照った彼女の、甘い汗の匂いが、鼻腔をくすぐります。
その、時でした。
訓練場の入り口から、ちょうど、エドワード殿下が、通りかかったのです。
彼は、わたくしたちの、その、あまりに密着した体勢を認めると、ピシリ、と、その場に凍りつきました。
「(なっ…!イザベラが、あの留学生と、あんな…!あ、あれはきっと、東方の国の、挨拶か何かに違いない!そうだ!しかし、なぜ、わたくしの胸は、これほどまでに、ざわつくのだ…!?)」
殿下が、内心で、激しい混乱に見舞われていることなど、つゆ知らず。
わたくしは、リョーコの、その完璧なサポートに、感動しておりました。
「リョーコ!素晴らしいサポートですわ!今の体勢、わたくしの腹斜筋に、ものすごく効きましたわよ!」
わたくしがそう言うと、リョーコは、にこりと笑って、力強く、親指を立てました。
「もう一度ですわ!次は、30秒、この体勢を維持しましょう!」
「(あい!)」
わたくしたちが、再び、その、奇妙で、しかし、極めて効果的なトレーニングを始めようとするのを、エドワード殿下が、ただ、愕然とした表情で見つめている。
そして、その後ろでは、クレメンティーナとダフネが、「わたくしたちも、あれを…?」と、絶望に顔を引きつらせている。
ええ、そうですわ。
わたくしたち、国際筋肉同盟の、輝かしい未来は、今、始まったばかりなのでございます。
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次話は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です。
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