第一話:決闘の果てに、わたくしは思い出す
冒頭のライバル?令嬢は、別作品のヒロインも務めています
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ゴツン、という鈍い音と、口の中に広がる鉄の味がした。
視界がぐにゃりと歪み、天と地が逆さまになる。わたくしのプライドの象徴たる真紅の縦ロールが、無様に地面に擦り付けられる感覚。遠くで、婚約者であるエドワード第二王子の、焦ったような声が聞こえる。
(ああ、わたくし…負けましたのね…)
あの、不吉な銀髪の女…セレスティーナ・フォン・ヴァイスハルトに。わたくしが放った最大火力の灼閃‐レッド系統の魔法は、彼女の作り出した氷の薔薇にいとも容易く防がれ、あまつさえ逆流したマナがわたくし自身を吹き飛ばすなどという、前代未聞の失態。
ツェルバルク公爵家の名に、泥を……。
そこまで考えて、ぷつり、とわたくしの意識は途絶えた。
次に目覚めた時、わたくしは天蓋付きのベッドの上にいた。見慣れたツェルバルク家の医務室ではなく、王立天媒院の、清潔だが無機質な医務室。
「お嬢様!お気づきになられましたか!」
傍らで心配そうにわたくしを覗き込んでいるのは、専属侍女のブリギッテ。その目には涙が浮かんでいる。
「ブリギッテ…」
「はい、お嬢様!ご気分は…」
「わたくし、どのくらい…」
「丸一日、お眠りになっておりました。兄上のヴォルフ様も、先ほどまでこちらに…ああ、ちょうどお戻りのようです」
扉が開き、険しい顔つきの兄、ヴォルフが入ってくる。
「イザベラ、目が覚めたか。全く、お前というやつは…」
兄の小言を聞きながら、ズキズキと痛む頭を押さえた、その瞬間。
――奔流。
わたくしの脳内に、全く別の人生の記憶が、濁流のように流れ込んできた。
日本の、どこにでもいる会社員。日々の癒やしは、休日にプレイする乙女ゲーム。中でも一番のお気に入りは、そう、今わたくしが生きているこの世界と全く同じ舞台の…
『白亜の塔のエトワール』!
「……はっ!」
わたくしは、勢いよく体を起こした。
そうだわ、思い出した。全て思い出した!
婚約者の王子エドワード。ゲームのヒロインである、そばかすの平民エリアーナ。そして、ライバル令嬢の、氷の薔薇セレスティーナ。
そして、わたくし、イザベラ・フォン・ツェルバルクは!
家柄と有り余る魔力を笠に着て、王子にまとわりつき、ヒロインをいじめ抜き、最後にはライバル令嬢にも敗北し、家からも追放される、「脳筋悪役令嬢」!
「どうした、イザベラ。また頭でも打ったか?」
「兄上っ!」
わたくしは、兄の手をがしりと掴んだ。
「わたくし、全てを理解いたしましたわ!わたくしがセレスティーナに敗北した、その理由を!」
「ほう?反省したのなら良いことだ。お前の魔力制御は、あまりに荒削りすぎる。もっと繊細に…」
「いいえ、違いますわ!」
わたくしは、兄の言葉を遮り、医務室に響き渡る声で、高らかに宣言した。
「敗因は、ただ一つ!わたくしの……筋肉が、足りなかったのですわッ!!」
「…………は?」
兄とブリギッテが、ぽかん、と口を開けて固まっている。
ええ、そうですわ。そうなのです。
魔法の逆流?魔力制御の失敗?違いますわ。それは、強大な魔力を支えるだけの、強靭な肉体が、わたくしに欠けていたからに他なりませんの!
ゲームの記憶?破滅フラグ?結構ですわ。
「そのような軟弱な未来は、このわたくしが、より強大な筋肉と、圧倒的な魔力で、真正面から粉砕すればよろしいだけの話!」
わたくしの瞳に、かつてない闘志の炎が宿るのを見て、兄が深いため息と共に、ぽつりと呟いた。
「…また、いつもの発作か」
いいえ、兄上。これは発作ではございません。
悪役令嬢イザベラ・フォン・ツェルバルク、本日、ここに完全復活。
わたくしの、破滅フラグ物理的破壊計画の、幕開けですのよ!
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