電装2 バルキューラス
ジェナヴァーダとドアルグアーマーとの対峙に熱意が込められた迫力で壮絶なバトル。
そんな展開をバーチャル空間観察モニターをのぞくオペレーター、坂本ヒナノはその空間から漏れた声を拾い、なぜか感動した。
「なんて格好良い救世主様なの〜。私のタイプだわぁ。どこから現れたのかしら〜」
ヒナノはモニターに集中しすぎて、シェルター内に封鎖された一閃の事は忘れていた。
(体当たりだけの白兵戦じゃラチがあかない。ならば、もうここはアレを使うか? 消耗戦になるよりマシだから)
「バケモノ、来い!! 必殺でお前を叩きこむ。覚悟!! ジェナセーバー!! くらえ、必殺のセーバースラッシュ!!」
相手のアーマーもバトルタイムの長期戦により疲へいしたのか、動きが鈍くなっていたのだった。
ジェナヴァーダのセーバースラッシュにより切り裂かれた敵アーマー、見事に大破したのだった。
モニター越しに観賞していたヒナノは感激したのだった。
「きゃー、きゃー!! もうこの救世主様、素敵過ぎ〜!! あ、こうしてる場合じゃなかった。敵がいなくなったから、この敵出現アドレスをアクセス不能用に多重ロックしてと……よし、アドレス封鎖完了っと」
シェルター装甲板が突如として消えかかり、いつもの透明ガラス板へと戻ったカプセル。
カプセルのカバリングが開閉し、中にいた一閃は無事に戻れたのだった。
「一閃チーフ。もう、どうなるのかとソワソワしました。おケガはありませんか?」
「ああ、俺は何も……。それより神奈川の地震でパビリオン全体の対応は?」
「当館は一時的に機能停止し、避難誘導が丁重に執り行われました」
「それなら良かった。トーイキューブにアクセスするアバターブース会場に行ってくる。児童を保護者まで送り届けるから」
「チーフはそこまで……」
「セキュリティー管理側は受付カウンターのような役割もしなければな」
「今回、チーフは働き過ぎてます。どうかお休みください」
「ありがとう。でもこのくらい大丈夫だから。ご心配かけてしまったが気にしなくていいよ」
そして、一閃は児童を親元に届けた後、CEO室に向かった。
「おじさ……いや、CEO。アレは何ですか? ジェナヴァーダという戦士に変身するアレは!!」
「おいおい、ご挨拶だな。まぁ、わたしがまねいたものだから、説明しなくてはならんが、それは次の休館の時に教えてやる。今回は地震が発生したんだ。来館客のパニックを収めるのが優先だろう?」
「そうでした。取り乱してしまいすみませんでした」
「普通ならそのように取り乱すさ。初陣はご苦労さまだったな一閃」
「もしも敗退した場合は考えなかったのですか? もし敗られてたら僕はどうなってたか。アバターの戦士がヤられたらヤバいんじゃないんですか?」
「さあな。そこまでは考えてなかったよ」
「救世主が死ぬなんてあり得ないと?」
「死や負けるプログラムは組んだ覚えはない。案ずるな。それより来館者の再誘導の補助をしたまえ」
「は、はい……行ってまいります」
一閃が館に戻りパビリオン整理をしだした頃、径孝はドアルグの通信回線をオープンした。
「フフフフフフフフ。ドアルグ・アーマーの潜入劇はいかがだったかな?」
「ネットサーフィン。いや、もはやサイバーウイルス導入、プログラミング・ラッシュ。これを駆使できるのはドアルグ、そなたくらいだ。部下にそれを施行させた訳か。己の手を汚さずに」
「そこまで読み取れるとはな。鉄甲電神ジェナヴァーダという戦士を組み込むそなたも対策の機能が群を抜くよの」
「まだ、組織化は完全でないな。いくつその攻撃分子をよこすつもりだ」
「数なんて管理下にない。ただ、そのパビリオンやらチャラチャラした日本の飾り物をきれいさっぱり根絶するまでさ」
「日本掌握か? 覇者になってなんになる」
「イギリス州都化とし、拠点に置くまでさ」
ロンドン通信から回線を断線。連絡を停止させたドアルグだった。
一方、グレイヴァーサイド。侵攻作戦ブリッジ。
アバター潜入訓練士だった頃に優良士官であったレイダルアスが孤立するように気障なフリをして対応していた。
「俺の可愛い人形さん……バルキューラス。どうやら次は俺のカノジョさんが出陣らしいね」
「相変わらずだな、レイダルアス。そのバルキューラスはネームレスのドアルグ・アーマーより宛になるのかよ?」
傍らにいるホリマーガが、気にしては小馬鹿にした物言いで茶化しだした。
「アバターブースに入って変身してみる。早速ジェナヴァーダの動きをデータ化してみせよう。今後の作戦の為にな」
ブース内に入り、セットアップしたレイダルアス。
「電装!! ドアルグフォーム!!」
変身の掛け声でそのアバターは戦士バルキューラスへと変化をなした。
「バルキューラスよ、日本のチャラい人形をブッ倒しに出よう!!」
そうして、バルキューラスは電脳チューブ内部へとくぐり抜けたのだった。