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翌日、私はいつもより早めにお屋敷を出て、学園に向かった。
教室で席に着いた私を、ほかの生徒たちが驚きの目で見ている。
「あのリリアーヌ様が教科書を読んでらっしゃる……」
「リリアーヌ様が始業ぎりぎりではなく、こんなに余裕を持って教室にこられるなんて……」
教室中がざわめいている。
それというのも、私が早めに教室へ来て、今日の授業の予習をしているからだ。
予習をするなんて学園に入って初めてだ。
今まで一度も勉強をがんばったことのない私だけれど、公爵家を継ぐのなら知識を増やさなければならないと考えた。
だから心を入れ替えて勉学に励むことにしたのだ。
昨日、あれからお父様とお母様にシャリエ公爵家を継ぎたいと伝えにいくと、お父様は婚約解消の相談をしたとき以上に驚いていた。
お父様は困惑していたけれど、お母様に親戚にシャリエ家を継がせるよりいいじゃない! とご機嫌な顔で説得されると、考え込んでいた。
その後でお父様は、それならばまずは学園のテストで十位以内に入ってみなさいと言った。
私はその言葉に勢いよくうなずいた。
すぐさま却下されなかったのはよかった。
しかし、私の学園での成績は下から数えたほうが早いくらいだ。
王国中から優秀な貴族の家の子が集まるこの王立学園で、十位以内に入るなんてきっとかなり難しいだろう。
けれど、これはどうしようもないリリアーヌが変わるチャンスな気がする。
お父様に言われた通りテストで十位以内に入ることができれば、リリアーヌのお先真っ暗な未来を変えるきっかけになるのではないだろうか。
そう考えて、昨日から勉強に精を出し始めた。
「……それにしても、全然わからないわ」
私は魔法薬学の教科書を眺めながら首を傾げた。
王立学園の教科書はそれなりに高度なので、今までサボってきた私が一朝一夕で理解できるようなものではなかった。
それでも必死に教科書を読み続ける。
「あら、リリアーヌ様? こんな早くに登校されたんですの?」
「それに教科書を読んでらっしゃるなんて! 一体どうなさったんですか?」
上から驚いたような声が聞こえてきて、顔を上げるとそこには二人の眩いばかりの美少女がいた。
一人は栗色のウェービーヘアにオレンジ色の目をした、モデルのように細くて華やかな令嬢。
もう一人は黒髪ボブカットに青い目をした、おしとやかそうで可憐な令嬢。
私は思わずぽかんと口を開けて二人を見る。