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それから結局、二人は私とジェラール様の婚約を解消する方向で考えてくれることになった。
私は安堵の息を吐く。
両親の理解さえ得られれば婚約解消もきっと円滑に進むはずだ。
もともと私とジェラール様の婚約は私のわがままから結ばれたもので、無理に続ける必要はないものだから。
私は壁際で待っていてくれたシルヴィと自室へ戻る。
「お嬢様、よかったですね。うまくいきそうで!」
「ええ。これからはジェラール様に付き纏うばかりじゃなく、新しい人生を歩みたいわ」
「それがいいです! シルヴィも応援しております」
シルヴィが笑顔で同意してくれる。
そういうわけで、私はジェラール様に関わりのない新たな人生を歩むことに決めたのだった。
部屋に帰ると早速、私はこれからの人生の計画を練ることにした。
婚約解消の件はジェラール様がまだ承諾してくれないので置いておくしかないけれど、彼もいずれ認めてくれるだろうと楽観的に考えている。
何しろ、ジェラール様はあんなにリリアーヌを嫌っていたのだ。
それに、Web漫画の通りなら、この先学園にヒロインが転入してくるはずだ。
ヒロインと恋に落ちれば、プライドの高いジェラール様も、きっと喜んで婚約解消の提案を受け入れるだろう。
だから婚約解消の件は時間に任せるとして、問題はこの先私がどうするかだ。
王子殿下と婚約解消した令嬢を嫁にもらってくれる人はいるだろうか。
リリアーヌの評判は最悪なので、なかなかに難しい気がする。
それなら職業婦人を目指してみるのはどうだろう。
公爵家の令嬢がする仕事とはどんなものがあるだろうか。
女官とか、文官とか……? あとは漫画の中には魔術師やシスターなんかも出てきたっけ。
けれど、どれもなんだかピンとこない。
頭を悩ませていると、ふとある考えが浮かんできた。
「……公爵家を継げばいいんじゃない?」
シャリエ公爵家の子供は私一人しかいない。
なので、もともと両親は私に婿を取らせて公爵家を継がせる予定だったみたいだ。
けれど、私がジェラール様の婚約者になりたいとごねたから、親戚筋から跡取りになりそうな子を選んで養子になってもらうことになった。
しかし、公爵家の跡取り選びは難航していて、未だ候補すらぼんやりとしか決まっていない状態だ。
それなら、私が公爵家を継いでもいいのではないか。
正直、今から新しい婚約者を探したり、女官や文官を目指したりするよりもずっと難易度が高い気がするけれど、私にはなんだかその計画がとても輝いて見えた。
「シルヴィ、私がシャリエ公爵家を継ぐっていうのはどうかしら?」
「いいですね! 私は賛成です! お嬢様が公爵家を継ぐなら、私もずっと公爵家に雇っていてもらえますし!」
シルヴィはあっさり賛成する。
私はそうよね、とうなずいた。
「私、女公爵を目指すことにするわ! もう一度お父様とお母様のところへ戻って、うちを継がせてもらえないか頼んでみる!」
「シルヴィもお供します!」
そうして私は再びシルヴィを連れ、両親のいる部屋まで駆けていった。