11-11
それから、私たちは街を後にすることにした。
ジェラール様とアベル様と一緒に王宮の馬車に乗り込む。私を送るために、王宮より先にシャリエ邸まで向かってくれるらしい。
シャリエ邸についたので、お礼を言って馬車を降りる。ジェラール様とアベル様も一旦外に出てきてくれた。
「リリアーヌ、今日はありがとう」
「ええ、こちらこそありがとうございました」
「リリィ、今日は邪魔しちゃってごめん。今度から尾行するときは迷惑かけないようにするよ」
「いや、尾行自体やめてくださいませ」
私は申し訳なさそうに言うアベル様に釘を刺しておいた。
別れを告げて二人を見送る。すると、馬車に乗りかけたアベル様がこちらへ戻ってきた。私は不思議に思って尋ねる。
「どうかなさいました?」
「あのさ、リリアーヌ。今日は兄上といて楽しかった?」
アベル様は緊張した様子で私を見てそう尋ねてきた。あまりに真剣な顔をするので首を傾げてしまう。
「楽しかったか……ですか?」
「うん。今日一日一緒にいて、やっぱり兄上のことが好きだと思い直したりしてないかと思って……」
アベル様はぎこちない調子で言う。
そこでようやく、アベル様は私がまた前世を思い出す前のようにジェラール様に夢中になるのではないかと心配しているのだと気がついた。
おそらく、それでこんな不安そうな顔をしているのだ。
不安そうにこちらを見つめるアベル様を見ていたら、ちょっと意地悪な気持ちが湧いてきた。
「さぁ、どうでしょう? 今日のジェラール様とっても紳士的で素敵でしたし、やっぱり婚約解消はやめて王妃になるのもいいかもしれませんわ」
「えっ、なにそれ! 兄上には靡かないって言ってたのに!」
「だってジェラール様、アベル様のように尾行してきたり、ちょっとしたことで大騒ぎしたりしないのですもの」
「ちょ、ちょっと待ってよリリィ!! もうしないから! 気をつけるから!!」
アベル様は涙目になって縋ってくる。私はおかしくなってきて笑ってしまった。
「冗談ですわ。ジェラール様との婚約を解消したい気持ちは変わりません」
「なんだ、冗談か……。びっくりさせないでよ」
アベル様は胸に手を当て、ほっとした様子で言う。それからいつもの調子に戻って言った。
「リリアーヌ、僕が正式に新しい婚約者になるまで、絶対にほかの人に靡かないでね!」
「だからアベル様と婚約する気はありませんってば」
私の言葉に返事もせず、アベル様は元気に手を振って去っていく。
去っていくアベル様を見つめながら、やっぱりアベル様といる方が気が楽かもと思ってしまった。アベル様なら少々雑に扱っても問題ない気がするし。
無事にジェラール様と婚約解消できたら、アベル様と婚約し直してあげてもいいかも……。
そう思いかけたところで、はっとした。一体何を流されかけているのだ。
ふいに浮かんでしまった考えを振り払うように、私は慌てて頭を振った。