11-10
私が何と答えようか考えあぐねていると、後ろからガタンと何かが倒れるような大きな音がした。
思わずそちらを振り返る。
するとそこには、倒れたゴミ箱と、その横でしまったという顔をしてこちらを見ているアベル様の姿があった。
アベル様は私と視線が合うと、慌てた様子でさっと壁の後ろに隠れる。私は口をあんぐり開けた。
「アベル様……!? まさか尾けてきましたの!?」
「え? アベル?」
ジェラール様もようやく気付いたようで、驚いたようにアベル様のほうに視線を向ける。
壁の向こうから、アベル様の目立つ桃色の髪が見え隠れしている。
私はすっかり呆れながら、アベル様のほうにずんずん歩いていった。
「ちょっとアベル様! あなた、私たちを尾行していましたわね!?」
「リ、リリアーヌ……」
腕を掴んでこちらを向かせると、アベル様は至極気まずそうな顔をする。
「だってリリアーヌと兄上が気になったから……!」
「だからって尾行はやめてくださいまし! まるでストーカーみたいですわ! 一体いつから尾けてたんですの?」
「えーと、二人が待ち合わせしたあたり……」
「最初からじゃないですか!」
そんな時間から暗くなった今までずっと尾けてきたんだろうか。一国の王子が何をやっているのだ。
私はドン引きしてアベル様を見る。
「仕方ないじゃないか! リリィが兄上に靡かないか心配だったんだよ!」
「だからって後をつけないでくださいまし! もう、ごみ箱まで倒して……。散らかってしまってるじゃないですか!」
「それは今から片付ける……」
「仕方ないですわね。私も手伝いますわ」
私はため息交じりに言う。本当に何をやっているのか。
ごみを拾おうとして、はっとジェラール様のことを思い出す。後ろを振り返ると、ジェラール様は私とアベル様を呆然とした顔で見ていた。
私は慌ててジェラール様の元へ戻る。
「すみません、ジェラール様。アベル様が馬鹿なことをしているので、つい気を取られてしまいましたわ」
「いや……」
ジェラール様は目を伏せる。それから神妙な声で言った。
「……リリアーヌは、アベルといるときのほうがずっと楽しそうだな」
「え?」
「いや、なんでもない。アベルも仕方ない奴だな。私も片付けを手伝うよ」
「えっ、王子殿下にごみの片付けなんてさせられません!」
「君だって公爵令嬢だろう」
ジェラール様はそう言うと、てきぱきごみの片づけを手伝ってくれた。傍から見れば王子二人と公爵令嬢が地面にしゃがみ込んでごみを拾うシュールな光景だったと思う。
すっかり片付くと、ジェラール様は言った。
「リリアーヌ、今日は強引に誘ってしまって悪かった」
「いえ、そんなこと」
「今日はもう帰ろうか。時間も遅いしな」
「ええ……」
私は曖昧にうなずく。
「……私たちは、別々に過ごす方がお互いに幸せなのかもしれないな」
ジェラール様は目を伏せながら、どこか寂しそうな表情で言う。
先ほどまでと急に言っていることが変わったので戸惑ってしまった。