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やがて、園長おすすめの魔獣の見学会は終わり、私たちはスタッフに盛大に見送られながら魔獣園を後にした。
「リリアーヌ、魔獣園は楽しめたか?」
「え、ええ! 色んな魔獣が見られて楽しかったですわ。ドラゴンの赤ちゃんも見られましたし!」
私は取り繕うように言う。本音はちょっと思っていたのと違ったけれど。
「よかった。じゃあ早速次の場所へ行こう」
「ええ、そうしましょう」
ジェラール様に連れられて馬車に戻る。それから私たちは次の目的地へと向かった。
***
その後も、ジェラール様に連れられて色んな場所を回った。
高級レストランや宝石店、王侯貴族のみ入れる美術館。どこも煌びやかな場所ばかりだった。
そうしているうちに、気がつけば辺りは暗くなってきていた。私はジェラール様と、よく整備された貴族街の通りを歩く。
煌びやかなランプを眺めながら、私は心の内で困惑していた。
(どうしてでしょう……。全く盛り上がりませんわ……!)
服飾店だったり魔獣園だったり高級レストランだったり。今日はいくつもの場所をジェラール様と回った。
しかし、行く場所は楽しいところばかりのはずなのに、なぜか絶妙に盛り上がらない。
今だって、魔法のランプで綺麗に飾り付けられたイルミネーションの通りを歩いているはずなのに、あまりその光景に心を動かされなかった。
ジェラール様が冷たい態度というわけでもないのに、なんなんだろうこれは。
「リリアーヌ、ほかに行きたい場所はあるか? 君は何が好きなんだ? 君の好きなものを教えてほしい」
「ジェラール様。今日は十分色んな場所に連れていっていただきましたし、もう無理なさらなくても」
「無理などしていない。私がやりたくてやっているだけだ」
ジェラール様はきっぱりと言う。私はどうしたものかと頭を抱えた。
すると、ジェラール様は歯切れ悪く言った。
「……本当にリリアーヌのことをもっと知りたいと思っているんだ。君のことは何でも教えてほしい」
「まぁ。珍しいことをおっしゃいますのね。以前のジェラール様からは考えられませんわ」
「……そうだな。確かに今までの私は、君のことにあまり興味が持てなかった」
私が茶化すように言うと、ジェラール様は思いのほか真剣な表情をした。それから私の目をまっすぐ見つめて言う。
「でも、今は違うんだ。自分でも自分がわからないけれど、どうしてだか君のことが気になる。君が離れていくと想像するだけで落ち着かなくなるんだ」
ジェラール様は至極真面目な顔で言う。そんなことを言われても、と私は困ってしまった。
「リリアーヌ」
ジェラール様は綺麗なエメラルドグリーンの目で私を見つめながら、そっと私の手を取った。
「今までのことは悪かった。けれど、私はリリアーヌに離れていってほしくないと思っている。もう一度最初からやり直さないか」
「え……?」
私は彼の言葉に戸惑った。
そんなことを言われても、私はこれ以上ジェラール様と深く関わりたくないと思っているのに。だって彼と一緒にいれば、前世に漫画で読んだ通り実家ごと巻き込んで没落する恐れがあるのだから。
それでも、私が以前のジェラール様狂信者のリリアーヌのままだったら、離れていってほしくないと言われて喜べたのかもしれない。
しかし、私は前世の記憶を思い出す前のリリアーヌとはすっかり考え方が変わってしまった。今の私は、危険を冒してまで彼と一緒にいたいとは思えない。
私の望みは、このまま円満にジェラール様と婚約解消して、関わらなくなることなのだ。