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「ジェラール殿下、リリアーヌ様。本日は当魔獣園にお越しいただき、心より感謝申し上げます。私がこの魔獣園の園長です」
「急に来たいと言ってしまってすまないな」
「滅相もございません。殿下とリリアーヌ様のお越しをお待ち申し上げておりました。こちらにドラゴンをご用意させていただいております」
園長はそう言って手で木箱を指し示す。木箱がガタリと音を立てた。
「この中にドラゴンが……?」
「はい。今お開けします」
園長はそう言うと、白い手袋をした手で木箱の蓋を開ける。
すると、中から緑色のトカゲのような生き物が顔をだした。トカゲのようだけれど、その背中には羽根があり、口元には鋭い牙が生えている。
緑色の生き物は、黒い大きな目をぱっちり開けてこちらを見つめていた。
「かわいい! これがドラゴンの赤ちゃんですのね!」
私ははしゃいで言う。ドラゴンの赤ちゃんをこんな間近で見られるなんて、すごいVIP待遇だ。確か一般客は檻の向こうから遠目に見ることしかできないはずなのに。
じっと見ていると、ドラゴンは不思議そうに首を傾げた。可愛らしい仕草に胸がきゅんとなる。
「ジェラール様、ドラゴン、とても可愛いですわね!」
「ああ、そうだな」
ジェラール様はドラゴンを見つめながら淡々と言う。
これって撫でさせてもらえたりするのかしら。あわよくば抱っこしたりなんて……。
私がわくわくしながらドラゴンを見ていると、さっと蓋が閉じられてしまった。
「え」
「ジェラール殿下、リリアーヌ様。お楽しみいただけましたでしょうか」
園長はにこやかに言う。
「ええと、もう少し近くで見せていただけませんか? 出来たら撫でたりしたいなぁなんて……」
「そんな、殿下の婚約者様がドラゴンに触れるなんて、そのような危険なことはさせられません! まだご覧になるのでしたらこの距離のままでお願いします」
「あ、そうですよね」
私はちょっと残念に思いながらもうなずく。まぁ、確かにドラゴンに触れて王族関係者がけがをしたら大変だ。
それに大変貴重な生き物なのだから、いくら別室で見せてくれるといっても触るのは難しいだろう。渋々ながらも納得する。
その後、ドラゴンのほかにも園長とスタッフは、色んな魔獣を木箱に入れて運んできてくれた。
箱に入った魔獣を順番に眺める。
色んな魔獣が見られて興味深い。部屋の中で座っているだけで魔獣を見せてもらえるのだから贅沢だと思う。
しかし、なんだか思っていたのと違うという気持ちが否めない。
魔獣園にくるなら、順路通りに歩きながら魔獣を見るほうがよかったな……。これではまるで、商人からおすすめの商品を紹介されているみたいだ。
私はちょっと微妙な気持ちで、魔獣を眺めていた。