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「お待たせしました、ジェラール様」
「着替え終わったか?」
私は店員に着せてもらった、腕の部分がレース素材になっている紺色のドレスでジェラール様の前に立った。
ジェラール様は着替えた私を見て、特に何も言わない。……似合っていないのだろうか。
「ええと、ジェラール様。着替えてみたのですが、どうですか?」
「え? ああ。よく似合ってるよ」
ジェラール様は真面目な顔で言う。私はちょっと微妙な気分になる。
アベル様だったら、私が着替えて出てきたら、もっと大袈裟に可愛いとか天使みたいだとか褒めてきてうっとうしいくらいなのに。
あまりにあっさりした反応で物足りない。
そう考えたところではっとして、私は慌てて頭を振った。なんでそこでアベル様が出てくるのだ。
ジェラール様とアベル様は別人なのだから、反応が違うのは当たり前ではないか。
「ジェラール殿下。こちらのドレス、リリアーヌ様の白い肌によく映えると思いませんか?」
店員がジェラール様に向かってにこやかに言う。
「ああ。確かにリリアーヌに似合っているな」
「本当に、ここまで白くきめ細やかな肌は見たことがありませんわ。顔立ちも髪も繊細でまるでお人形のようで。殿下はこんなにお美しい婚約者がいらして幸せですわね」
店員は、おほほと笑いながら言う。明らかに持ち上げられているのがわかったけれど、それでも褒められて気分がよくなる。
ジェラール様は真面目な顔でうなずいた。
「ああ。確かにリリアーヌは作り物みたいな姿をしていると思う」
「つ、作り物?」
店員は困惑した顔をする。
私は怪訝な顔でジェラール様を見た。なぜわざわざそんな言葉選びを。店員の言葉に合わせて人形みたいではだめだったのか。
作り物なんて言うとなんだか整形しているみたいじゃないか。いや、この世界に整形の文化はないけれど。
その後も店員はジェラール様が私を褒めるようあからさまに促していたけれど、ジェラール様の口から出てくるのは褒め言葉なのかなんなのかわからない言葉ばかりだった、
表情から全く悪意が感じ取れないので、悪気はないのだと思う。
そうやってしばらく過ごした後、私は何とも複雑な気持ちで、エトワールを後にした。