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そういうわけで、私は数日後にジェラール様と、街まで行くことになった。
ジェラール様のことをあまり好いていない侍女のシルヴィは、苦々しい顔をしながらも髪やドレスを整えてくれる。
まもなくうちにジェラール様がやってきて、私は彼の乗ってきた馬車に乗り込んだ。
「ジェラール様、迎えにきてくださってありがとうございます」
「ああ。こちらこそ来てくれてありがとう」
ジェラール様はどこか硬い表情で言う。それから、ぎこちない態度で言った。
「リリアーヌはドレスを見るのが好きなんだよな。王都にあるエトワールという服飾店に話を通しておいたから今からそこへ行こう」
「まぁ、それは嬉しいですわ!」
私はちょっと明るい気分になって言う。
わざわざ私の好きそうな店に話を通しておいてくれたなんて。ジェラール様がそんなことをしてくれるなんて意外だけれど、ドレスを見に行けるのは単純に嬉しい。
それから私はジェラール様と、エトワールに向かった。
ドレスを見るのは大好きだけれど、エトワールには行ったことがない。名前だけは聞いたことがあるけれど、実際に訪れるのは初めてだ。
私はわくわくしながらお店に着くのを待った。
やがて馬車は、ペールグレーの壁に深緑色の屋根の立派な造りの建物の前に到着した。私が普段利用している服飾店とは随分雰囲気の違う、大人っぽい店だ。
「お待ちしておりました、ジェラール殿下。リリアーヌ様」
出迎えてくれたのは、銀縁の眼鏡をかけ、髪を後ろでお団子にまとめた厳格そうな女性だった。黒のベストに同じく黒のスカートというかっちりした格好をしている。
その人は私とジェラール様を、建物の奥の部屋まで通してくれた。
「まぁ、ドレスがたくさんありますのね!」
私はきょろきょろ辺りを見回す。その部屋には、壁が隠れてしまうほどたくさんのドレスを着たマネキンが並んでいた。
店員がドレスを指し示しながら言う。
「リリアーヌ様のために当店自慢のドレスを取り揃えておきました。どうぞご覧になってください」
「ええ、見せていただきますわ」
私は勧められるままドレスを眺める。
どれもとても綺麗だ。上質な布で作られた高級品だと一目でわかる。わかるのだけれど……。
(あまり……私の趣味ではないですわね……)
ドレスはどれも、大人っぽ過ぎて微妙に私の趣味には合わなかった。色は黒や深緑などで良く言えば上品、悪く言えば地味。形もなんだか修道女の着る服みたい。
私はもっとこう……飾りがいっぱいの華やかなドレスが好きなのだ。フリルやレースがたくさんついている感じの。子供っぽい趣味だと言われてもそこは譲れない。
しかし、せっかくジェラール様が連れてきてくれた店でそんなことを口にするわけにはいかず、私は趣味に合わないドレスの中から比較的気に入ったドレスを選び、着せてもらうことにした。
別室で着替え、ソファで座って待っていたジェラール様の元へ戻る。