11-4
「あの……?」
「リリアーヌ、頼む。私に一度チャンスをくれ」
「チャンス?」
私は困惑しながらジェラール様を見る。
どうにかして断りたかったけれど、王子殿下にこんな低姿勢で頼まれるとさすがに断りづらい。何度も頼まれるうちに、とうとう承諾してしまった。
「わかりましたわ……。一度くらいなら……」
「本当か!?」
ジェラール様はぱっと笑顔になる。
「ありがとう、リリアーヌ。絶対に君を楽しませるよ!」
「はぁ……。それはありがとうございます」
すっかり表情の明るくなったジェラール様は、弾んだ声で私に別れを告げて去っていく。
私はそんなジェラール様の背中を見送りながら、どうしたものかと考えていた。
***
それから数日後、アベル様がまた勝手にシャリエ邸にやってきた。
アベル様は今日も応接間でメイドたちにもてなされて寛いでいる。私が呆れながら部屋に入ると、アベル様は笑顔でこちらをみた。
「リリアーヌ! お邪魔してるよ」
「またいらしたんですの? 本当に暇ですわね、アベル様」
私はため息交じりに言う。それから仕方なくアベル様の向いのソファに腰掛けた。
メイドがやってきて、てきぱき紅茶を淹れて私の前に置いてくれる。
アベル様は向かいで、楽しそうに今度出かけるのによさそうな場所を調べてきたと話している。私は紅茶を飲みながら、淡々とその話を聞いた。
話が一区切りついたところで、ちょうどいいのでジェラール様とも出かけることになったことをアベル様に報告しておいた。
すると、アベル様は途端に不満そうな顔になる。
「え!? なんで兄上と……!? そんなこと今まで一度もなかったのに!」
「本当ですわよね。驚いてしまいましたわ」
私は紅茶を口に運びながら言う。
最近のジェラール様はやっぱり変だ。以前までのジェラール様は、リリアーヌと極力一緒にいたくなさそうだったのに。
「リリィ、なんでそんなのん気な顔してるんだよ! リリィの将来の婚約者は僕だろう!? 兄上と出かけるなんて浮気だよ!」
「だからアベル様を将来の婚約者にする予定は全くありませんわ。むしろ現時点での婚約者はジェラール様ですのよ」
私は呆れて言う。
アベル様はぐぬぬと不満そうな顔をしていた。
「仕方ないから認めるけどさ……。リリアーヌ、兄上に口説かれてもなびかないでね?」
「まぁ、あのジェラール様が口説いてくるわけないじゃありませんの」
「わからないじゃないか。最近の兄上のリリアーヌを見る目にはどことなく熱を感じる……!」
「私は感じませんけどね」
私が否定しても、アベル様は全く納得する様子がない。
私は呆れながら、そんなアベル様を見ていた。