11-2
無事アベル様への報告も終わったので、高等部校舎まで戻ることにする。
すると、廊下の向こうからジェラール様が歩いてくるのが見えた。向こうもこちらに気づいたようで、目が合ってしまう。
「リリアーヌ」
ジェラール様はなぜかこちらへ近づいてきた。
私は戸惑いつつも返事をする。
「まぁ、ジェラール様。奇遇ですわね」
「……またアベルといたのか?」
ジェラール様は複雑そうな顔で尋ねてくる。嘘を吐くことでもないので、私は正直に答えた。
「ええ。アベル様にはテスト勉強を手伝ってもらいましたので、結果を報告しておりましたの」
「……そうか。二人で勉強を……。テストの結果はどうだったんだ?」
「目標には届きませんでしたけれど、前より随分上がりましたわ」
「そうか。それはおめでとう」
私が答えると、ジェラール様は真面目な顔でお祝いの言葉をくれた。しかし、その後でまた複雑そうな表情に戻って言う。
「リリアーヌ、最近やけにアベルと一緒にいるな」
ジェラール様の声には、若干不満が滲んでいる気がした。
私は前世の記憶を思い出してから今までのことを振り返る。確かに、記憶を取り戻す前と比べたら、随分アベル様といる時間が増えたように思う。
なんだかんだアベル様は、私のテストで10位以内に入って跡取りとして認めてもらいたいという目標に協力的なので、頼りになるのだ。
前世を思い出す前、ジェラール様につき纏うばかりだった非生産的な時間の過ごし方から考えれば、かなり有意義に時間を使えていると思う。
私は何の気なしに答えた。
「そうかもしれませんわね。アベル様、頭がいいので勉強で困ったときに頼りになるのですわ」
「……勉強で困っているなら、わざわざ中等部のアベルに頼まなくても、私がいつでも教えるが」
「まぁ。お忙しいジェラール様にそんなことお願いするなんて出来ませんわ! アベル様は用もないのにしょっちゅう高等部に来て暇そうなので、遠慮なく頼めますけれど」
私はすぐさまそう言った。
ジェラール様もアベル様同様毎回学年で一番の成績を取るくらい優秀だけれど、彼に勉強を教わるなんてとんでもない。私は極力ジェラール様との関わりを減らしたいのだ。
Web漫画『星姫のミラージュ』の通りにジェラール様がステラとくっつく気配はさっぱりないとはいえ、ジェラール様に近づいて万が一にでも没落するのは避けたい。
そもそも、私がシャリエ公爵家の跡取りを目指したのもそれが理由なのだから。
私がきっぱり断ると、ジェラール様は苦々しい表情になった。




