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「考えてもみてくださいまし。私は公爵家の一人娘。その上この奇跡のように美しい容姿。唯一無二の尊い存在なのですわ。そんな私とあなたが同じ人生を歩めると思って?」
「え……? 今励ましてくれる流れじゃありませんでした……?」
「なんで私があなたを励ましてあげなくてはなりませんの? 私が言いたいのはつまり、私に恵まれているのがずるいと主張すること自体がおこがましいということですわ。自分の立場を知って、慎ましく生きてくださいまし」
私が自信満々に言うと、ステラはぽかんとしてしまった。
後ろからアベル様に、ちょっとリリアーヌ、と引き気味に肩を叩かれる。
「そういうわけですから、つまらないやっかみで私の邪魔をしたことを反省してくださいませ! こちらにはあなたの本性が記録された録音があることを覚えておいたほうがよろしくてよ! 行きますわよ、アベル様!」
「え、リリアーヌ、言うことは本当にそれでよかったの?」
「ええ、言いたいことが言えてすっきりしましたわ! それより早くしてください! 急がないとテストが始まってしまいますわ!」
「えー……」
私は困惑しているアベル様の手を引いて、大急ぎで走り出す。
ステラの声は、もう聞こえてこなかった。
***
その後、私はテスト開始時間ぎりぎりに教室に到着し、無事テストを受けることができた。
準備が功を奏したのか、直前まで大騒ぎしていたにしては落ち着いて問題を解くことができた。
ちなみに、ステラのほうはしばらく遅れて教室に戻ってきた。減点はされるものの、間に合わなかった教科は、後日別室でテストを受けられるそうだ。
そんなこんなで、ステラのせいで大変だったものの、無事にテスト期間は全て終了した。
テスト最終日の午後、校庭のベンチにやってきた私は清々しい気持ちで伸びをする。
「やっと終わりましたわー! ステラの妨害にも負けずによくがんばりましたわ、私!」
私は自分で自分を褒める。ステラの妨害を阻むことが出来て本当によかった。
ただ、ちょっと気になるのは、『星姫のミラージュ』のヒロインであるステラを、漫画の中の意地悪なリリアーヌさながら、思いきり馬鹿にしてしまったことだ。
あれでこの世界に悪役認定されてしまったらどうしよう。
いや、漫画の中ではステラは人に嫌がらせするような少女ではなかったし、嫌がらせに反撃したことで悪役認定される恐ろしいシステムがあるとは思いたくないけれど……。
そう考えて、清々しい気分が少し曇ってきたその時、後ろから声が聞こえた。




