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ステラは放心したように動かない。
アベル様はそんなステラに構わず、制服のポケットから通信機を取り出した。再生ボタンを押すと、先ほどのステラの言葉が流れ出す。
『どうしてもリリアーヌ様をここへお呼びしたくて……。けれど、私の名前で呼び出したのでは来てくれないと思って、アベル様の名前をお借りしてしまいました』
『ふふふ、せっかく閉じ込めたのにどうして開けなければならないんですか?』
ステラの声がはっきりと通信機から流れ出す。
この異世界版携帯電話のような通信機には、便利なことに音声録音機能もついているのだ。
ステラは通信機から流れる自分の声を聞いて呆然としている。それからがくんと地面にへたり込んだ。
「こんなはずじゃ……」
「杜撰な計画で私を陥れようとするからこんな目に遭うのですわ! もっと頭を使ったほうがよろしくてよ? 私を罠にかけようとして自分が罠にかかってるんですからざまあないですわね!!」
私はステラの前に立って思いきり高笑いしてやった。
ステラは唇を引き結んで拳を握り締めている。悔しそうなステラの顔を見ていると笑いが止まらない。
アベル様が横から、「リリアーヌ、笑い過ぎじゃない?」と戸惑い顔で言ってくる。
すると、ステラがキッとこちらを睨みつけてきた。
「……なんであなたなんかがそんなに恵まれてるんですか」
「は?」
「リリアーヌ様はずるいです! 公爵家生まれのお嬢様のくせに、厳しい教育も受けずさんざん甘ったれて生きてきて! 自分から強引に王太子との婚約を取り付けたくせに、それを撤回して跡取りを目指すなんて勝手過ぎます! なんでそんな勝手なことをして許されるんですか!?」
「それはまぁ、自分でも勝手だとは思いますけれど……」
「あなたみたいにわがままな人がジェラール様やアベル様に好かれているのも許せません!! 私なんて生まれてからずっと誰も味方がいない状況で生きてきたのに! 孤児院でも伯爵家でも冷遇されて、居場所は自分で作らなきゃいけなくて、それなのになんであなたは最初から全部持ってるんですか!!」
ステラはそう言うと、さめざめ泣き出した。
アベル様は困惑した顔でステラを見ている。
私はステラの前にしゃがみ込むと、彼女の視線を合わせた。
「ステラ様、泣かないでください。ちょっと言い過ぎてしまいましたわ」
「リリアーヌ様……」
「あなたも大変だったのですわね。知りませんでしたわ」
『星姫のミラージュ』で読んだので、ステラの境遇は知っているつもりだった。しかし、漫画には孤児院時代の境遇も、伯爵家に引き取られてからの生活も詳細に描かれていなかったので、実際本人の口から聞くまでその大変さがわからなかったのだ。
私はステラに向かってにっこり微笑む。
「ステラさん」
「な、何ですか……」
「自分が私のような高貴な存在と同じ待遇を受けられるなんて、思い上がった考えは持たない方がよろしくてよ」
私がそう言うと、ステラはぽかんとした顔をした。
私は懇切丁寧に説明する。




