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「それがどうしたんですの! 早く開けてください!!」
「嫌ですわ。自分が恵まれていることに気づきもしない方は少しは痛い目を見てください」
ステラは冷え切った声で言う。それから、扉の向こうから足音が聞こえてきた。
(このまま立ち去る気……?)
私は扉に耳を当て、外の様子に耳を澄ませた。足音はどんどん遠ざかっていく。
テスト開始まで、あと十分ほどしかない。ステラは私をここに放置して、テストを受けさせないつもりなのだろうか。なんて卑怯なことをする女なのだ。
怒りがむくむく湧いてきた。
私は扉に足をかける。それから思いきり蹴り飛ばした。
外から金属が壊れる音がして、扉が前に開く。突然光が差し込んできて眩しさに私は目を瞬かせた。
どうにか目を開けて、ステラのほうに駆けていく。
こちらを振り返ったステラは、驚愕の表情で私を見た。
それから唖然とした様子で口を開く。
「え……? なんで? 確かに鍵をかけて閉じ込めたのに……」
「ふふふ、あれで閉じ込められたと思ったのなら甘いですわね」
「あの鍵を壊したんですか? え、でも、そんなはず……!」
ステラは信じられないというように目を白黒させている。
私は得意になって言った。
「か弱い令嬢の私が鍵を壊せるわけないじゃありませんか。はじめから細工をしておいたのですわ」
「さ、細工……? 一体どういう……」
「私ではなくアベル様がですけれど」
私がそう言った途端、木の陰に隠れていたアベル様が姿を現す。ステラは先ほどよりさらに驚いた顔をしてアベル様の方を見た。
「アベル様!? なぜここへ……!!」
「まさか本当にこんなことをするとは思わなかったよ。犯罪者になる覚悟で南京錠に細工しておいてよかった」
「細工? いつの間に? 私がずっと持っていたはずなのに……」
ステラは呆然と扉の前でバラバラに壊れて転がっている南京錠を見つめる。
「君が何度も僕のところへやってくるから、その隙にこっそり鞄から南京錠を抜き取っておいたんだ。それで衝撃を加えたら簡単に壊れるように細工しておいた」
「な……っ」
ステラは固まっている。
アベル様は、ステラが怪しげ南京錠や鎖を持っていることを警戒していた。それで、彼女が纏わりついてきた隙を狙って、こっそり南京錠を抜き取っておいたらしい。
それでその日の間に、軽い衝撃で壊れるように細工をして、再びやって来たステラの鞄に戻しておいたと。
私がターゲットになる可能性もあるので、もし鍵をかけて閉じ込められるようなことがあれば、なるべく強い衝撃を与えるようあらかじめ言われていた。
そういうわけで、か弱い令嬢の私が扉の向こうから蹴っただけで簡単に扉が開いたのだ。
ちなみにアベル様のことは、あのどう見ても怪しい偽手紙を見つけたときに、通信機で連絡して呼んでおいた。




