10-3
「アベル様―、来てさしあげましたわよー。どこにいるんですのー?」
倉庫に着くと、私は辺りを見回しながら大声で言った。
しかしアベル様の姿は見当たらない。人を呼び出しておいて一体どこにいるのか。
「早く出てこないと帰ってしまいますからね!」
そう言ってみるが、辺りはしんと静まり返っている。
私は首を傾げた。場所を間違えたのだろうかと、持っていた手紙を改めて見直す。しかし、そこにははっきり『西側の倉庫』と書かれていた。
「東側の倉庫と間違えたのかしら?」
私は一旦倉庫の外に出ようとする。
しかし、外に出ようとした瞬間扉が勢いよく閉まった。途端に倉庫の中が真っ暗になり、何も見えなくなる。
外からガチャリと鍵が閉まるような音が聞こえてきた。
「……!? なんですの!?」
「リリアーヌ様、本当に来てくださったんですね」
扉の向こうから、可愛らしい少女の声が聞こえてくる。
「その声はステラさん……? どうしてあなたがここに……」
「どうしてもリリアーヌ様をここへお呼びしたくて。けれど、私の名前で呼び出したのでは来てくださらないと思ったので、アベル様のお名前をお借りしてしまいました」
ステラは悪びれる様子もなく言う。
つまり、あの手紙はステラが偽装したものだったのだ。私は扉の方に駆け寄ってどんどん叩いた。
「何してくれるんですの! 早く開けてくださいまし!!」
「ふふふ、せっかく閉じ込めたのにどうして開けなければならないんですか?」
「今日はテスト当日ですわよ! 間に合わなったらどうしてくれるんですか!? 今日のために必死で苦手な勉強をしてきたのになんで邪魔するんですの!!」
「だからじゃないですか」
扉の向こうから冷たい声が聞こえる。
「は?」
「リリアーヌ様、跡取りになるために勉強をがんばっているんですよね。どうして王子の婚約者という恵まれた立場なのに、わざわざ家を継ぐことを目指すのか疑問ですけれど」
「こっちには色々あるんですわ! 跡取りになるために学園のテストで10位以内を目指すよう言われましたの! だから今回のテストは超重要なんですわ!!」
「跡取りになるために10位以内ですか……。リリアーヌ様のご両親は、長年適当に過ごしてきたあなたが跡取りになりたいだなんて戯言を言っても、否定することも無条件で受け入れることもなく、現実的な目標を示してくれるようなまっとうな方達なんですね……」
ステラはなぜか寂しそうな声で言う。
不思議に思ったけれど、今はステラの感情なんて気にしている暇はないので、再び扉をドンドン叩いた。




