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私が首を傾げていると、ジェラール様は怒鳴るように言った。
「ふざけているのか!? そんな勝手な言い分を飲めるわけがないだろう!!」
「何をそんなに反対しますの。ジェラール様、私の婚約者でいるのがお嫌だったのではないですか?」
「ああ、うんざりしていたよ。君の傲慢さには呆れていた。しかし、突然そんなことを言われても困る」
ジェラール様は苛立たしげにそう言った。
私は頬に手を当てて考え込んだ。
こんなに激高されるとは思わなかった。
もしかすると、私から婚約解消を申し出てきたことにプライドが傷ついたとかだろうか。
この人はプライドが高そうだしあり得そうだ。
「それでは、しばらく考えていただいて構いませんわ。婚約解消する気になりましたら改めてお呼びくださいませ。ごきげんよう」
「あっ、おい! リリアーヌ!!」
後ろでジェラール様が呼び止める声がする。
私はその声に構わず、教室を後にした。
***
学園からお屋敷に帰ると、私はお父様とお母様に婚約解消の件を報告することにした。
二人は驚くだろうけれど、何しろリリアーヌに甘い二人だ。
説得すれば許してくれる気がする。
お母様は残念がるかもしれないけれど、お父様の方は今までもとても王妃としての器があるように見えない私を心配している節があったし。
漫画の通りにいったらリリアーヌのせいで家が取り潰される恐れがあるので、少々無理にでも婚約解消を押し通したほうがいいだろう。
自室で両親に何から説明しようか考えていると、扉を叩く音がした。
返事をすると、侍女のシルヴィが入ってくる。
「お嬢様、病み上がりで学園に行って大丈夫でしたか?」
「シルヴィ。ええ、何も問題はなかったわ」
私が答えると、シルヴィはほっとしたように息を吐いた。
シルヴィは、私が公園で倒れたときに一緒にいた侍女だ。
責任を感じていたようで、私が寝込んでいる間、しょっちゅうベッドのそばに来てはぐすぐす泣いていた。
私が目覚めると、号泣しながら申し訳ありませんでしたと抱き着いてきた。
美しいもの好きのリリアーヌが選んだ侍女だけあって、シルヴィはとても美人だ。
プラチナブロンドの髪に青い目をして、貴族のお嬢様と言っても差し支えのないくらい高貴な姿をしている。
けれど、シルヴィは貴族ではなく商家生まれの平民だ。
公爵家の侍女ともなると貴族出身なのが一般的だけれど、リリアーヌがお店を訪れた際に気に入って連れてきたのだ。
「よかったですわ。お嬢様、これでまたジェラール様とも毎日会えるようになりますね」
「そのことなんだけど、私、ジェラール様とは婚約解消しようと思って」
「え?」
シルヴィは目をぱちくりする。
両親より先にシルヴィに伝えることになってしまったが、彼女にも伝えておいたほうがいいだろう。