10-1
ステラの動向が気になりつつも、どうにかテスト勉強に励むこと数週間。
前世の記憶を取り戻して以来、二度目のテスト期間があと数日に迫っていた。
「ステラさんは一体何を考えているのかしら?」
あれからステラは、アベル様にやたらと接近しつつ、時折私にも何か企んでいそうな顔で話しかけてくるということが続いていた。
『リリアーヌ様、シャリエ公爵家の跡取りを目指しているって本当ですか? 将来は王妃様になるはずなのに、やはりジェラール様との仲にご不満が?』
『最近になって急に勉強に力を入れ出したとお聞きしました! 公爵家のご令嬢でがんばらなくても何もかも手に入る立場なのに、立派なのですね!』
『リリアーヌ様、ジェラール様との婚約はリリアーヌ様の強い希望で成立したとうかがったのですが、本当ですか? 希望しただけで王子殿下との婚約まで成り立たせられるなんて、公爵家のご令嬢って本当にすごいです! 私には真似できません!』
ステラはよくそんな嫌味だかなんだかわからない言葉をかけてくる。
そういう含みのある言葉をかけてくるときは、大抵周りに人がいない時なので、みんなステラの不気味な面に全く気付いていない。むしろ、彼女は愛らしく健気な令嬢だとほとんどの生徒から思われているはずだ。
多分、私がステラの本性を吹聴したところで信じてもらえないだろう。
最近は真面目に過ごしているのでマシになってきたとはいえ、これまでの行いのせいでリリアーヌの評判はすこぶる悪いのだ。
もし彼女が私に向かって小声で嫌味を言い、私がそれに激昂しようものなら、みんなが私を悪く言う状況は目に見えている。
私はステラの思惑に乗せられて原作通りの没落の未来を辿らないよう、細心の注意を払っていた。
そうな風に過ごすうちに、早くもテストは三日後に迫っていた。
放課後、私が帰り支度をしていると、アベル様が教室までやってきた。
「聞いてよ、リリアーヌ! ステラ嬢、また玄関で待ち伏せしてたんだよ! 振り切ってきたけれど。いいかげん疲れた……」
「まぁ、お気の毒に」
私は口先だけで同情の言葉を述べる。アベル様には本当にそう思ってるの?と不満そうに見てくる。
「あの子、ちょっと怖いんだよ……。この前、学園に登校してきたら腕にしがみついてきたことがあってさ。その時に鞄の中が少し見えたんだ。鎖とか、やけに大きな南京錠とか入ってるの見えた。あんなもの何に使う気なんだろう……」
「まぁ。アベル様、監禁でもされてしまうのではないですか? 気を付けてくださいね」
「他人事みたいに言わないでよ! 結構本気で怯えてるんだから!」
アベル様は悲壮な声で言う。
私は『星姫のミラージュ』の展開を思い浮かべた。記憶をたどっても、鎖や南京錠が出てきたシーンは思い出せない。




