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(あれ……? 私のさっきのステラへの態度、『星姫のミラージュ』のリリアーヌみたいではなかったかしら……?)
そう思い至り一気に血の気が引いた。
さっきはついアベル様に馴れ馴れしくするステラに苛立ってしまったけれど、原作ヒロインに喰ってかかる真似なんてしてよかったのだろうか。
あれは困っているアベル様にステラがしつこくしたのが悪いと思う。思うけれど、先ほどの自分が前世のウェブ漫画で読んだリリアーヌの姿と重なってしまう。
あれで悪役令嬢判定されて、お家取り潰しの未来に近づいたらどうしよう……。この世界が『星姫のミラージュ』の世界なら、運命はステラに都合よく進むかもしれないのに……。
私の頭には、次から次へと嫌な想像が駆け巡った。
「リリィ? どうしたの? 早く行こうよ!」
「あああ、やってしまいましたわぁ……!!」
「何を? なんで唸ってるの、リリィ!」
私はしばらくの間、アベル様に不思議がられるのにも構わず、ずっと頭を抱えて呻いていた。
***
その日は結局、アベル様とカフェやドレスショップを回りはしたけれど、気がつくとステラと原作漫画のことばかりが頭に浮かんでくるので気が気ではないまま終わってしまった。
それから休日が明け、最初の登校日になる。
どきどきしながら教室へ向かうと、そこには普段通り仲のいい子爵令嬢や男爵令嬢と笑い合っているステラの姿があった。
私のことは特に気にする様子もない。
私はほっとして席に着く。
これから先はステラに近づかないようにしよう。この前のようにステラがアベル様にべたべたしてきたとしても、感情的にならずに冷静に対処すればいいのだ。
私は心の内でそう決意して、いつも通りテスト対策用のノートを開いた。
しかし、冷静でいようと決めたというのに、その後は決心を鈍らせるようなことばかり起きた。
ステラが学園でもなぜかやたらとアベル様に近づいてくるのだ。
アベル様が高等部の校舎に来ると駆け寄っていったり、お菓子を作ってみたんですとクッキーを渡したり、果ては中等部校舎の前で待ち伏せしたり。
私はその度に苛立って、でも感情的になってはいけないと、すまし顔でそっぽを向いていた。
しかし、ステラの行動が止む気配はない。
アベル様は当然ステラに構うことはなかった。彼女が駆け寄ってきてもかわして、渡されたクッキーも即座に断っていた。待ち伏せされているのに気づくと、別の出入口を使って逃げていた。
ステラもアベル様に避けられていることくらい気づいているだろうに、気にする様子もない。
アベル様のステラを見る目は日に日に冷たくなっていった。




