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「悪いけど、本当に……」
「ステラ様。少々強引ではありませんか? あまりしつこくなさるのは貴族令嬢としていかがなものかと思いますわよ」
気がつくと、私は無意識のうちにステラに近づいて、アベル様の腕を掴んでいた彼女の手を引き剥がしていた。
ステラは目をぱちくりさせながらこちらを見る。
「リリアーヌ様……、なぜ止めるのですか?」
「なぜって、アベル様が困っているからですわ。さっきから何度も断っているでしょう」
「この前私がジェラール殿下とお話していたときは、同じ学園の生徒なのだから仲良くして構わないと言ってくださったのに……。やっぱりリリアーヌ様はアベル様のほうがお好きなのですか? ジェラール殿下の婚約者なのに?」
ステラは目をまんまるにして、不思議そうな顔で尋ねてくる。
一体何を言っているのだ。前回と今では状況が違うではないか。
私はむっとして、アベル様の手を引いた。
「そういう問題ではありませんわ! 断られているのにしつこくするなと言ってるんです! ステラ様、もう少し人の迷惑を考えたほうがよろしくてよ。行きましょう、アベル様!!」
「あ、うん……!」
私はステラに向かってそれだけ言うと、アベル様の手を引いて自習室の外へ引っ張っていった。
後ろから、ステラの刺すような視線を受けながら。
自習室を出て廊下に出ると、私の口からは不満が零れた。
「なんなんですの、あの子! ちょっとおかしいですわ!」
「ちょっと距離感がおかしな子だったね……」
「アベル様ももっとはっきりきっぱり断ってくださいまし! どうしてあんな子にべたべた触られるままにしておきますの!」
私は不満を込めて言う。アベル様は素直に謝った。
「ごめんね。ちょっと困惑しちゃって。次からは気を付けるよ」
「……そうしてくださいませ」
「でも嬉しいな。リリアーヌが怒ってくれるとは思わなかった。リリアーヌのことだから、ご自由に仲良くしてくださって構いませんとか言うかと思ったよ」
アベル様は頬を緩めて嬉しそうに言う。
私は言葉に詰まってしまった。ジェラール様のときは確かに今アベル様が言ったのと似たようなことを言ったのに。そもそもあの時は苛立ったりもしなかったのに、なぜ今の私は感情的になっているのだろう。
私は言い訳をするようにもごもご言う。
「……別に、アベル様がステラさんにべたべたされているのが嫌だから怒ったわけではありませんからね」
「うんうん。わかってるわかってる」
アベル様は本当にわかっているのかいないのか、機嫌のよさそうな顔でそう言った。
その会話で少し冷静になった私は、アベル様と静かに廊下を歩いた。
廊下を歩いているうちに、だんだん頭が冷えてくる。




