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その後、私は教科書とノートを取り出して、アベル様とテスト勉強に励んだ。年は私のほうが一歳上だけれど、学力は比べるまでもなくアベル様の方が上なので、基本的に私が教わる形で進んだ。
「うー、疲れましたわ……」
「リリアーヌ、この章が終わるまであと少しだよ。がんばって!」
「もう無理ですわ……。頭がぐるぐるして何も入ってきません!」
「じゃあ、このページが終わったら今日の分は終わりにしようか。もう少しだけがんばろう?」
「このページだけ……。それならがんばりますわ……!」
私はアベル様に教わりながらへろへろになって問題を解く。
そうしてようやく今日予定していた分を終えた。
「終わりましたわ!! やってやりましたわ、私!!」
「すごいよ、リリィ。よくやったね! お疲れ様!!」
感動に打ち震える私に向かって、アベル様はぱちぱち拍手してくる。幼児扱いされている気がするけれど、気にしないほうがいいのだろうか。
「リリィ、図書館は終わりにして、街のほうに出ようか。カフェでもドレスショップでも、リリィの好きなところ行こうよ」
「両方行きたいですわ!」
アベル様の提案に勢いよく答える。一刻も早く教科書の山から離れて街に行きたい。
アベル様は笑いながらうなずいて、帰り支度を始める。
すると、後ろから突然わざとらしいくらい甲高い声が聞こえてきた。
「あれっ。リリアーヌ様とアベル様? お二人も図書館にいらしてたんですね!」
振り返ると、そこには制服姿のステラがいた。
「ステラさん……」
「お二人でお勉強なさってたんですか? 本当に仲がよろしいのですね!」
ステラは笑みを浮かべながら言う。
アベル様は得意げな顔になり、まぁね、なんて言っている。私はその様子を微妙な気持ちで眺めた。
するとステラはアベル様に近づいて、そっとその腕を掴んだ。
「アベル様、ご迷惑でなければ私もご一緒してはいけませんか? お休みなので王立図書館まで来てみたはいいものの、初めて来たので勝手がよくわからなくて……」
「え?」
急に腕を掴まれたアベル様は、ステラに向かって困惑した目を向ける。
「ええと……、悪いんだけど、僕たち今日はもう帰る予定なんだ。街の方へ行こうかと話してて」
「街に行くんですか? それなら私もご一緒してはいけませんか?」
「えー……? ごめん、今日はリリアーヌと二人で出かける予定だから……」
アベル様は困惑顔のまま答える。
しかしステラは断られてもめげず、アベル様の腕に触れたまま、「どうしてもだめですか?」「私、王都に越してきたばかりなので詳しい方に案内してもらいたいんです!」なんて詰め寄っている。
私はその光景を見て少々イラついてしまった。
(なんなんですの、この子。しつこくありません?)
アベル様に甘い声で話しかけているのも、馴れ馴れしく腕を掴んでいるのも、なんだか無性に腹が立つ。
無意識のうちに眉間に皺が寄っていた。




