8-2
そんなことをしている間も、ジェラール様とステラはにこやかに話している。いや、にこやかなのはステラだけか。
リリアーヌ以外には基本的に優しく礼儀正しいジェラール様は、ステラから強引に離れることもできずに困っている様子だった。
ステラの楽しそうな声が響く。
「ジェラール様っておそばで見ると本当にお綺麗なんですね! さすが王族の方です!」
「それはありがとう。悪いが、ステラ嬢。そろそろ行ってもいいだろうか」
「えっ、もう少しだけお話しできませんか?」
ステラはそう言って、そっとジェラール様の手にそっと触れる。ジェラール様の眉間の皺が深くなった。
私は改めてステラに驚いてしまった。
王子殿下相手にあんなに押せるなんてすごい度胸だ。
過去の私も大概だったけれど、私には一応婚約者という大義名分があったのに。
さすが原作主人公だと感心していると、困ったようにステラから視線を逸らしたジェラール様と目が合った。
ジェラール様は途端に驚いた顔になる。
彼はステラの手を振り払い、駆け足で壁際にいる私のほうまでやって来た。
「リリアーヌ!」
「あら、ジェラール様。見つかってしまいましたか。盗み見して申し訳ありません」
「そこで見ていたのか? 変な誤解はしないでくれよ。ステラ嬢とは偶然廊下ですれ違っただけだ。向こうがなぜか絡んできたんだ」
ジェラール様は焦り顔で言う。
私は説明を聞きながらも、そんなに焦らなくてもいいのにと不思議に思う。
「ええ、そのように見えましたね。誤解なんてしていないので大丈夫です。それに、私は以前のようにジェラール様が女子生徒と話しているのを見ただけで割って入るのはやめることにしたので、お気になさらなくて構いませんよ」
「君は全く気にしてくれないのか……?」
構わないと言ったのに、ジェラール様はなぜかショックを受けたような顔をする。
すると、私の後ろにいたアベル様が顔を出して言った。
「兄上。リリアーヌは兄上に執着するのをやめたみたいだから、もう過剰に気をつけることないよ」
「アベル、お前もいたのか」
「リリアーヌは兄上と婚約解消して僕と婚約し直す予定だから、これからは兄上も自由にほかの女の子と話していいんだよ」
「何を言ってる。私は婚約解消を認めた覚えはない」
アベル様の言葉に、ジェラール様は顔をしかめる。
ふと、ステラの方に視線を向けると、彼女は先ほどと同じ場所で、呆気に取られた顔でこちらを見ていた。
そしてその顔が、以前集会の後で見たときと同じように冷たく歪んだ。
彼女はつかつかこちらに歩いてくる。
私は何かしてくる気なのでは警戒して後退りした。
しかしステラは予想外にも、私の前に来るとぺこりと頭を下げた。




