8-1
ステラが冷たい目でこちらを睨んでいるのを見てしまってから数日が経った。
あれ以降ステラはあんな表情をすることはなく、いつも通りの邪気のない明るい顔で過ごしている。
私に何か言ってくることもないし、もちろんこちらから近づくこともない。全くいつも通りだ。
あの時見た表情は、もしかして見間違えだったのかもしれない。そんなことまで思い始めていた。
そんなある日、先生に呼び出された帰りに廊下を歩いていた時のこと。
人気のない廊下を歩いていると、角を曲がった先に珍しいものを見つけた。
ジェラール様とステラが何やら二人で話しているのだ。ステラはジェラール様の服の袖を引っ張り、楽しそうに笑っている。
ジェラール様はそんなステラを見て、困惑したような顔をしていた。
私は思わず、壁に隠れて二人の姿を見つめてしまった。
つい先日までステラは、ジェラール様を間近で見たこともないと言っていたのに。いつの間にあんなに距離が近づいたのだろう。
原作漫画のヒーローとヒロインだけあって、やはり出会う運命が定められているのだろうか。
私がそんな風に考えて感心していると、後ろから肩を叩かれた。
「リリアーヌ、何してるの?」
「まぁ、アベル様。どこにでも現れますのね」
私は驚きつつも小声で言った。中等部の生徒だというのに本当にしょっちゅう高等部の校舎にやってくる。
「だって高等部校舎まで来ないとリリアーヌに会えないし」
「アベル様も暇なんですね」
「リリアーヌに会うために時間を作ってるんだよ。それより何か見てたの? って、あ。兄上と例の転校生!」
アベル様は二人を見て驚いた顔をした。
「なんであの二人が……? リリアーヌ、なんで黙って見てるの? 止めなくていいの? 前は兄上に女子生徒が近づくたびに怖い顔して近づいていって強引に引き剥がしてたのに……!」
「うるさいですわね! 私がもうジェラール様のことは婚約解消していいくらいどうでもいいと思っていること、アベル様も知ってるでしょう!」
私は声を押さえつつもきっぱり言う。
「そうだけど、いざ兄上が別の女の子と話していても何もしないリリアーヌを見ると違和感がすさまじくて……」
アベル様は困惑気味にそんなことを言った。
イラっとしたのでアベル様の腕を思いきりつねっておいた。




