1-4
***
翌日、私は早速ジェラール様に婚約解消を申し出ることにした。
朝、体調に問題ないか医師が確認にきたので、登校は午後からになってしまったけれど、私は学園につくとすぐにジェラール様の元へ向かった。
彼の教室は、私の教室の二つ隣にある。
私が学園に到着したのはちょうど昼休みだったので、すぐさま彼の教室へ向かった。
「ジェラール様はいらっしゃいますか」
教室の前で呼ぶと、いそいそと数人の生徒が出てきた。
「リリアーヌ様。ジェラール様は今、教師に呼ばれて教室にはおりません」
「あら、それなら私が呼んでいたと伝えておいてくださる?」
「ええと、それは……」
男子生徒はなぜか歯切れ悪くなる。
伝えるくらいなんなのだ。面倒な態度に顔を顰めた。
「リリアーヌ、私に何か用か?」
すると、後ろからよく通る低い声が聞こえた。
振り返るとそこには、今まさに探していたジャラール様本人がいた。
「あら、ジェラール様」
「彼らには君が来ても取り継がないように頼んであるんだ。あまり彼らを困らせないでくれ」
面倒くさそうに言うジェラール様にむっとする。
用事の内容すら聞かないうちからなんなのだ。
やっぱり性格悪くないだろうか、この男。
教室にいる生徒たちはこそこそ話しながら、私たちを興味津々の目で眺めている。
「困らせるようなことをした覚えはありませんけれど、ジェラール様がいらっしゃったのならちょうどよかったですわ。今日の放課後、お時間をいただけませんこと?」
「また買い物に付き合えだとかくだらないことか? それなら承諾しかねる」
「違いますわ。もっと重要なことです」
「一体何の用事だ。ここで話せないことなのか?」
「ジェラール様が構わないのでしたら、ここで申し上げても問題ありません。ジェラール様、私と婚約解消してくださらない?」
私がそう口にした途端、辺りがしんと静まり返った。
先程までざわめいていた教室で、今は誰一人言葉を発しない。
「…………は?」
たっぷり数十秒の沈黙の後、ジェラール様は目を見開いて間抜けな声を出した。
「だから婚約を解消しましょう。私、もうあなたにつきまとうのをやめることにしました」
「何を言っている。この婚約は君が散々ごねたせいで結ばれたのだぞ」
「それは反省しております。申し訳ございませんでした。一刻も早くジェラール様を解放するためにも、婚約はなかったことにしましょう」
私がそう告げると、ジェラール様の顔が歪んでいく。
喜ぶと思ったのにどうしたのだろう。