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私はその姿を見てぽかんとしてしまった。
教壇の前で微笑んでいるのは、まさしく原作漫画で見てきたステラそのもの。綺麗な紺色のウェービーヘアに、輝くような金色の目。
一昨日シャリルの市場で見かけたくたびれた姿とは似ても似つかない。
私が見たのはよく似た別人だったのかと思ってしまうほどだ。
ステラは先生に促され、窓際の一番後ろの空いている席に座った。
周りからは興味津々な視線が向けられる。ステラはその少々不躾な視線に動じることもなく、ずっと愛らしい笑みを浮かべていた。
ステラはその日の間中、ずっとにこやかに過ごしていた。
私はステラを警戒する反面、今まで漫画の中で見ていたステラが実際に目の前で動いているのを、興味深く眺めた。
そうこうしているうちに一日が終わり放課後になる。
すると、私の座る席のすぐ横の廊下側の窓に、予想通りの人物が現れた。
「リリアーヌ、今日も会いに来たよ!」
「アベル様。やっぱり来たんですの」
私は呆れ半分に言う。本当にしょっちゅう高等部校舎に現れる。
アベル様は窓枠から身を乗り出して私に尋ねる。
「なんだか思いつめた顔してない? どうかした?」
「別に思いつめてないですわ。ちょっと考え事をしていただけで」
「考え事?」
「ええ、新しく転校生が来たんですの。彼女のことが気になって」
「ああ、僕も聞いたよ。最近伯爵家の令嬢になった子なんだってね」
アベル様はそう言いながら教室の中を見回す。それから、窓際の席に座るステラに目を留めた。
「あの子か。普通な感じの子だね」
「普通? 明らかによく目立つ美少女ではありません?」
私はひそひそ声で言う。アベル様は首を傾げた。
「リリアーヌ以外の子は全員横並びに見えて……。あの子一般的に見て美少女なんだ」
「何を馬鹿なことおっしゃってますの」
私は大真面目にそんなことを言うアベル様に呆れてしまった。アベル様の言うことはいちいち極端だ。
「だって本当のことだし。あの子の何が気になるの?」
「彼女が私の未来にどう影響するかですわ……」
「影響? あの子そんな重要人物なの?」
アベル様は不思議そうに目をぱちくりさせている。
「いいえ、深い理由はありませんの。気にしないでくださいまし。ところでアベル様は何の用があっていらしたんですの?」
「特に用はないよ。いつも通りただ顔を見にきただけ」
「あら、そうですの。用がないのでしたら私は失礼させていただきますわ」
「あっ、待って! また一緒に帰ろうよ!」
私は慌てた声で言うアベル様をスルーして、立ち上がってすたすた歩く。
今朝、今日は優しく対応してあげようかなと思っていたはずなのに結局いつも通りになってしまった。
私は後ろからついてくるアベル様の声を聞きながら、まぁいいかと思い直した。




