7-1
シャリルの市場へ行った翌々日、私は軽い足取りで学園に向かっていた。
一昨日はとても楽しかった。色々勉強になったし。
またアベル様が高等部の校舎に現れたら、今日は邪険にせずに少しだけ優しくしてあげようか。
そんなことを考えながら教室へ向かう。
教室に入ると、リリアーヌの取り巻きのニノンとオデットがバタバタと近づいてきた。
「リリアーヌ様! 大ニュースですわ!」
「転校生が来るんですって!」
「えっ」
二人の言葉に目を丸くした。
転校生ってまさかステラのことだろうか。
漫画でもステラが転校してくる時期は明確に描かれていなかったので、彼女がいつ現れるのかわからなかった。ついにやってくるのだろうか。
つい一昨日ステラの姿を見かけたばかりだというのに、すごいタイミングだ。
私はどきどきしながら二人に尋ねる。
「転校生ってどんな方ですの? 名前は? 外見は?」
「名前や外見まではわかりませんけれど、女子生徒だとは聞きましたわ!」
「伯爵家のご令嬢だとも聞きました!」
二人は興奮気味に話している。
原作漫画では最後にリリアーヌを裏切ると知っているのでこの二人のことは苦手だったけれど、転校生に大騒ぎするなんて意外と可愛いところもあるじゃないか。
私が感心して見ていると、二人はひそひそ話し出した。
「そのご令嬢、どうやら純粋な伯爵家の子供ではなくて、つい最近まで孤児院にいたらしいんですの」
「まぁ、いやですわ。そんな方とこれから一緒に過ごさなくてはならなくなるなんて」
「孤児院にいた方が伯爵家に引き取られるなんて不思議ですわよね。大方、伯爵様の婚外子か何かなのでしょうけれど」
……前言撤回だ。どうやらこの二人は転校生の素性がスキャンダラスなので気になっているだけらしい。
というか、ニノンとオデットの話を総合すると、転校生はほぼ確実にステラだろう。
私は噂話に盛り上がっている二人をかわしつつ自分の席についた。
ついにステラが学園にやってくるのだと思うと、心臓の音が早くなる。
今の私はステラに意地悪するつもりも、ジェラール様に固執して彼女を馬車の事故に見せかけて殺す気もさらさらない。
けれど原作漫画の強制力的なものが働くこともあるかもしれない。よく警戒しておかないと。
そうしているうちに、始業時間になった。
教師が小柄な少女を一人連れて入ってくる。
その姿に息を呑んだ。
教師に連れられて入ってきたのは、正真正銘『星姫のミラージュ』で見たステラだったからだ。
「皆さん、今日からこのクラスに転校生が加わることになりました。仲良くしてあげてくださいね」
「ステラ・フォンテーヌと申します! どうぞよろしくお願いします」
ステラはそう言ってぺこりと頭を下げる。
それから顔を上げて、教室を見回してにっこり笑った。




