6-1
あっという間にテスト返却が終わってから最初の休日になった。
順位が良くてテンションが上がっていたために、ついアベル様と出かける約束をしてしまった私は、現在その支度をしている最中だ。
「リリアーヌお嬢様、今日はどのドレスをお召しになられますか? 髪型はどうします? お化粧はどんな感じにいたしましょうか?」
シルヴィはいくつもドレスを持ってきて、うきうきした様子で言う。
「なんだかシルヴィのほうがはりきっているみたいね」
「だってリリアーヌ様とアベル様とのデートですもの! 気合が入りますわ! この調子でジェラール様からアベル様に婚約者を代えてしまえばいいのです!」
シルヴィは両手にドレスを持ったまま、勢い込んで言う。
シルヴィは私に冷たいジェラール様があまり好きではないらしく、反対に私にやたらと好意的なアベル様は気に入っているらしい。
別にデートじゃないんだけど、と思いながらも、私はシルヴィにされるがままドレスや髪飾りを身につけていった。
それから約束の時間がやってきて、侍従のレノーが呼びにきた。
「リリアーヌ様、アベル殿下がいらっしゃいました」
「ええ、今行くわ」
私はレノーに連れられ応接間まで向かう。シルヴィは後ろからわくわくした顔でついてきた。
応接間の扉を開けると、そこには満面の笑みで花束を抱えるアベル様がいた。
「リリアーヌ、今日はよろしくね。これ、君へのプレゼント」
アベル様はそう言って真っ赤な薔薇の花束を手渡してくる。
私は怪訝な顔でアベル様を見た。
「なんですの、これ」
「今日の記念に。リリアーヌに似合いそうだと思って買ってきたんだ」
「花束なんていりませんのに」
私は手渡された薔薇の花束を眺めながら言う。
誕生日でもないのに花束なんて持ってくることはないのに。
すると、後ろからシルヴィとレノーに文句を言われた。
「お嬢様! せっかくアベル殿下が花束を贈ってくださったのに、もっと嬉しそうにしないとだめではないですか!」
「そうですよ、お嬢様。こういうときはもっと可愛らしくお礼を言うものですよ!」
二人に後ろから文句を言われ、私は渋々アベル様にお礼を言う。
「アベル様、花束をありがとうございます。一応感謝いたしますわ」
「どういたしまして」
アベル様は私が微妙な顔をしたままなのは気にも留めない様子で、明るい笑顔で言った。




