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「まぁ、いいですわ。とにかく報告したかったんです。一応アベル様のおかげですからね」
「いや、リリアーヌががんばったからだと思うよ」
アベル様はようやくいくらか落ち着いた様子で言った。
私は首を横に振る。
「いいえ、アベル様にもらった本がなければ無理でした。最初は馬鹿にしているのかと思いましたけれど、私のことを考えて選んでくれたんですね」
「ちゃんと使ってくれたんだ……。それにしても、本当に10位以内に入れたの? いきなりそれはすご過ぎない?」
「ええ、経営学がぎりぎり10位に入りました!」
「なんだ、経営学だけか……、って、え!? 経営学が10位だったの!? よくそんな難易度高いところで……」
アベル様は目を見開いて驚いている。
私は得意になって胸を張った。
「ちょっと私が本気を出せば、このくらいチョロいですわ!」
「本当にすごいよ。おめでとう、リリアーヌ」
アベル様は素直にそう言って褒めてくれた。嬉しくて顔がにやけてしまう。
「ところで、リリィ。全体順位は何位だったの?」
「92人中65位でしたわ!」
「あ、そっちはあんまりなんだね」
アベル様はちょっと拍子抜けしたようにそう言った。
「ま、まあ、今回は経営学以外あんまりでしたけれど、次はさらに順位を上げてみせます!」
「うん。この短期間でそんなに上がったなら、次はきっともっといけるよ」
アベル様はそう言って応援してくれた。
「それじゃあ、私はそろそろ高等部校舎に戻りますわね」
報告も終わったので、そろそろ引き返すことにする。
背を向けようとすると、アベル様に呼び止められた。
「ちょっと待って、リリアーヌ! せっかくテスト期間も終わったし、リリアーヌの成績が上がった記念にどこか行かない?」
「どこかですか」
アベル様は振り向いた私の手をぎゅっと握ってそんなことを言う。
さっきまで顔を赤くして照れていたというのに、すっかりいつも通りの態度に戻ったようだ。
私は少し考えてから答えた。
「いいですわよ。今度のお休みにでもどこか行きましょうか」
「え、いいの? 本当に!?」
「ええ。アベル様には結構お世話になりましたし」
私がそう答えると、アベル様は目をぱちぱちさせて、信じられないという顔をした。
自分から誘ってきたくせに、了承されるとは思ってなかったみたいだ。
「それでは、どこに行くか考えておいてくださいませ」
「うん……!! 絶対リリアーヌが喜ぶ場所に連れていく!!」
アベル様は心なしか赤い顔で、力を込めてそう言ってきた。
私はそんなアベル様の表情を見ておかしくなりながら、踵を返す。
周囲に視線を向けると、中等部の生徒たちがみんな呆気に取られた顔でこちらを見ているのに気づいた。
よく考えたら、ここは人の大勢いる教室前だった。
ちょっとまずかっただろうかと思ったけれど、私は今最高に気分が良かったので、まぁいいかと気楽に考えて高等部校舎まで駆けていった。




