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1-3

 私は漫画の中の悪役令嬢、リリアーヌ・シャリエに転生してしまったらしい。


 前世の私は、現在のリリアーヌと同じ十六歳の、平凡な女子高生だった。


 スマホでウェブ漫画を読むのが趣味で、通学中や夜寝る前に、ひたすら読み漁っていた。


 特にハマっていたのは、『星姫のミラージュ』という物語だ。


 ヒロインは孤児院出身のステラ。


 物語は彼女が貴族のお屋敷に引き取られるところから始まり、貴族たちの通う学園に通うことになって、そこで王子殿下と恋に落ちるという流れで進む。


 煌びやかな学園生活と、王子殿下を始めとした見目麗しいキャラクターたちが売りの作品だった。


 連載していたサイト内でも人気上位の作品だったと記憶している。



 その中で、しょっちゅうヒロインを邪魔しては懲らしめられている意地悪な令嬢がいた。


 それがリリアーヌだ。


 リリアーヌは身分と美貌以外取り柄のない令嬢で、頭も良くなければ、これといった特技もなかった。


 顔と身分以外のスペックは他キャラに比べて著しく低い。


 ただヒロインにつっかかって登場人物と読者からのヘイトを買っているだけの存在のリリアーヌは見ていて痛々しく、私は変な同情すら覚えていた。


 ……そして、私は今その痛々しいリリアーヌに転生してしまったようなのだ。


「どうしよう……!!」


 ベッドの上で私は頭を抱えた。


 よりによってなぜリリアーヌなのだ。


 登場人物のほとんどから敵視され、コメント欄では読者から総叩きにされていたリリアーヌ。


 最後にはヒロインの乗った馬車を事故に見せかけて崖から落とした罪で、お家取り潰しとなって没落していた。


 お先真っ暗過ぎる。


 どうせ転生するならヒロインのほうがよかった。


 私はまだ朦朧とする頭を振って、延々とベッドでうなされていた。



 そんな風にしてベッドの上で地獄のような一週間を過ごし、私はようやく起き上がれるようになった。


 その頃には、私の心情はそれまでとは大きく変わっていた。



「もう、ジェラール様とかどうでもいいわ。それより平和に生きたい……。リリアーヌと同じ運命は辿るなんて嫌……!」


 リリアーヌと同じ末路はごめんだった。


 何が悲しくて殺人未遂を犯して、家族まで巻き込んで没落しなければならないのだ。


 それに、と私は頭をひねる。



「……なんで私、あんなにジェラール様のことが好きだったのかしら。そこまで必死になって追いかけるような人?」


 今まであれほど夢中だったはずのジェラール様に、ちっとも心が動かなくなっていた。


 確かにリリアーヌにも色々と問題はあった。


 しかし、彼の私に対する態度もなかなかだった気がする。


 学園で私が近づけば軽蔑した目を向けて当てつけのようにほかのご令嬢たちに話しかけ、週に一度のお茶会のときもつまらなそうな顔をして不機嫌さを隠そうともしない。


 私が次期王妃にふさわしくないのではないかと側近候補の学生たちに言われると、呆れ顔で「私もそう思ってるんだけどね」なんて言って同意していた。



「……よく考えるとジェラール様もなかなか性格悪いわね」


 リリアーヌがどうしようもなかったのを差し置いても、ジェラール様の態度も褒めたものではない気がする。


 彼がこちらを見る冷めた目を思い出すと、あんなに夢中だった気持ちがどんどん覚めていくのを感じた。


 もう強引にでも結婚したいなんて思えない。


 幸いにして私たちはまだ十六歳。


 王国にはまだ婚約者のいない貴族令嬢も多いので、私と婚約解消してもジェラール様は新しい婚約の相手には困らないだろう。



「よし、さっさと婚約破棄してしまいましょう!」


 私は自室で一人決意を新たにした。


 あんな王子はこちらから捨ててしまおう。


 私が解放してあげたら、ジェラール様もさぞ喜ぶことだろう。

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