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「ちょ、ちょっとシルヴィ! 今のすごくわかりやすかったわ! もっと聞きたい!」
「え、こんなのがですか?」
「ええ、あなたすごいわよ! もっと教えて!」
「いえ、私は全然。お店であったことを話しただけで。貴族用の店舗には人手が足りない時以外近づけてもらえなかったくらいですし……」
シルヴィは少し寂しそうな顔をして言う。
明るい彼女が普段はしないような表情に首を傾げる。
しかし私が頼み込むと、シルヴィは売り子時代にあったことや感じたことを詳しく教えてくれた。
「すごいわ、経験者の話ってためになるわね!」
私は感動して言った。
実際にお店であったことを例にしてもらえると、かなり理解しやすい。前にアベル様が言っていた、実際の場面を想像できるってこういうことだろうか。
しかし、シルヴィ自身は腑に落ちないような顔をしている。
「私の話なんかでお役に立てたのでしょうか」
「ええ、とても!」
私は勢いよくうなずいた。
お世辞抜きにそう言ったけれど、シルヴィはやっぱり不思議そうな顔のままだった。
***
そうして、ついに前世の記憶が戻ってから最初のテストの日を迎えた。
「お嬢様、がんばってくださいませ!」
「ええ、行ってくるわ……!」
シルヴィが見送りをしてくれる。
私はまるで受験にでも向かうみたいな気持ちで、学園に向かった。
教室ではクラスメイトたちが、普段通り和やかに談笑していた。
この学園の生徒たちは普段から余裕を持って予習復習している子がほとんどなので、テスト当日に慌てたりはしないのだ。
余裕のある雰囲気の教室で、私だけが必死に教科書とテスト範囲をまとめたノートを眺める。
「リリアーヌ様、おはようございます。今日は午前中で終わりますね! テストが終わったら街へ買い物に行きません?」
「行きましょうよ、リリアーヌ様!」
ノートを読み返していたら、取り巻きのニノンとオデットが、横から邪魔をしてきた。
今日のテストが終わっても明日から数日はテスト期間が続くのに、随分と余裕だ。
私は二人に曖昧な返事をして遠ざけながら、テスト範囲の最終確認に取り組んだ。
やがて先生がやって来て、テスト開始の時間になった。
問題用紙が配られ、設問に目を通す。
(う……やっぱり難しい……)
私はげんなりしながら問題を解く。あんなに勉強したはずなのに、それでもわからない問題だらけだ。
(あ、でもここはわかるかも……)
ちんぷんかんぷんな問題の中で、いくつか答えのわかる箇所があった。
アベル様がくれた本に載っていたところの、応用編みたいな問題だ。
ほかにも、シルヴィが教えてくれた経験談に関連した問題は、するする解ける。
私は解ける問題を選んでひたすら解いていった。




