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ジェラール様が乱入してきたせいで時間をロスしてしまったけれど、その後は無事に今日予定していた分の勉強を終わらせることができた。
窓の外は大分暗くなってしまっている。
私は椅子に座ったまま大きく伸びをした。
「うーん、がんばった! 私は今日もよくやったわ!!」
ここ数日間、リリアーヌの人生至上初めて真剣に勉強に取り組んできた。
なかなか頑張っていると思う。
最初は暗号のようだった教科書も、今では随分理解できるようになった。
「……っていっても、これで十位以内に入れるとは思えないけどね」
リリアーヌと意識が混ざり合って無駄に自信過剰になった現在の私でも、さすがにこの程度で王立学園の成績十位以内に入れるとは思っていなかった。
がんばってはいるけれど、何しろ元のレベルが低いのだ。
本当に成績上位になってお父様に公爵家を継ぐことを検討してもらえるのか、なんだか自信がなくなってくる。
「……でも、やれるだけのことはやってやるわ」
私はアベル様にもらった本を手に呟く。
シャリエ家の跡を継ぐためには、できることからやるしかいのだ。
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学園からシャリエのお屋敷に帰ると、すぐさま侍女のシルヴィが出迎えてくれた。
「お嬢様、お帰りなさいませ。お荷物お持ちしますね」
「ええ、お願い」
シルヴィに鞄を渡し、自室へ向かう。
部屋に戻ると、私はソファにどさりと腰を下ろした。
「あー、疲れたぁ。脳みそがぐるぐるいってるわ」
「お疲れ様です、お嬢様。こんなに遅くまで勉強なさっていたんですか?」
「ええ、学園の図書室に残ってずっと経営学の勉強をしてたの! ようやく少し理解出来てきたところよ!」
「経営学ですか。難しそう……」
シルヴィは口元に手を当て、複雑な顔をしている。
「でも、シルヴィの実家はお店をやっていたわよね。シルヴィも最初に会ったときはお店で売り子をしていたし。お父様やお母様から経営の話を聞いたりしなかった?」
シルヴィの家は、王都で宝石店を営んでいる。
私がなんとなくそのお店に入ったときにシルヴィが接客をしてくれて、それで美少女だったので気に入って侍女にするためにシャリエ家に連れてきたのだ。
もしかすると経営について詳しかったりして、とちょっぴり期待して尋ねてみるが、シルヴィは苦笑いで首を横に振った。
「いいえ、全く。お店の経営のことなんて知らずに過ごしてきました。売り子も言われたことをやっていただけですし」
「そうなの? まぁ、それを言ったら私なんてお父様が公爵なのに今まで領地経営のことを全然知ろうともしなかったけどね」
少々がっかりしながらそう答える。
まぁ、シルヴィから経営について教えてもらえるなんて、あまり期待してはいなかった。




