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アベル様が家に来てから数日。
私は毎日学園の図書室に残ってテスト勉強に励んでいた。
一番がんばっているのは経営学だ。
実際の領地経営で活用することを想像しながら、わからないところがあればアベル様にもらった本を眺めて、どうにか内容を理解している。
進みがいいとは言えないけれど、結構理解できてきた気がする。
「絶対10位以内に入ってやるわ!」
私は拳を握りしめながら、気合を込めてそう口に出した。
「リリアーヌ、本当にテスト勉強なんてしているのか?」
「え?」
その時、後ろからやたらと良い声が聞こえてきて、振り返るとそこにはジェラール様がいた。
私は目をぱちくりして彼を見つめる。
一体何の用だろう。リリアーヌを毛嫌いして、いつも極力関わらないようにしていたジェラール様が、向こうから声をかけてくるなんて。
記憶にある限り初めての事態に私は困惑してしまう。
ジェラール様は私の座っている席のすぐそばまで来て、勝手に本の一冊を手に取った。
「『たのしいけいえい学』……? これ、初等部向けの本じゃないか?」
「あっ、返してくださいまし!」
私は慌ててジェラール様の手から本を奪う。これはアベル様が私のために選んでくれた、一応大切な本なのだ。
ジェラール様は複雑そうな顔で本をちらちら見ながら言う。
「リリアーヌ、君がシャリエ家の跡継ぎを目指しているという話を聞いたのだが」
「えっ、誰からですか?」
「アベルからだ。リリアーヌは将来自分を婿にしてシャリエ家を継ぐ予定だから、早く婚約解消に応じてあげて欲しいとせがまれた」
「まぁ。ジェラール様にまでそんなことを言っているんですの。アベル様を婿にする気はありませんわ」
私は呆れながら答えた。
婿入りの話はきっぱり断ったというのに、ジェラール様本人にまで宣言しているなんて。
きっとお兄様相手に冗談半分で言っているのだろうけれど、気真面目なジェラール様が本気にしたら面倒なことになるではないか。
私がやれやれと呆れていると、ジェラール様の表情がわずかに緩んだ。
「……そうか。アベルが勝手に言っているだけなのだな」
「ええ。婿入りの件はそうです」
「公爵家を継ぐ件は本当だということか?」
「そうですわ。私、女公爵を目指しておりますの。お父様もテストで十位以内に入ったら跡継ぎの件を前向きに考えてくれると約束してくださいましたし!」
「……君が女公爵? 本気で言っているのか? 『たのしいけいえい学』で学んでいるレベルでは無理なんじゃないか」
ジェラール様は眉を顰めて言う。
私はむっとして言った。




