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その後、アベル様は呑気に紅茶を飲みながら、メイドたちに私のお屋敷での生活を事細かに聞いたり、シルヴィや従僕のレノーと和やかに談笑したりして、満足そうな顔をして帰っていった。
一応相手は第二王子なので、私は帰っていくアベル様を渋々玄関ホールまで出ていって見送ってあげた。
その後、私はむかむかしながら自室に戻った。
初等部向けの本を渡してくるとは何事なのか。
せっかく少し見直しかけたのに。やっぱりアベル様は私のことをからかっているのだ。
もらった本はテーブルの上に放り出しておいて、私は机で昨日読んでいた教科書の続きを開く。
しかし、難しい教科書に向き合っているうちに、だんだんアベル様にもらった本が気になってきた。
(私の理解に合わせたって言っていたわね……)
私はテーブルの方まで歩いていき、本の一冊を手に取った。
本当に絵本みたい。
再び馬鹿にされているような気分になりながらも、ページを捲る。
よく見ると、本にはいくつか付箋が貼ってあるのに気がついた。
「あれ……これ、私が昨日わからないって言ったところ……」
私は思わず食い入るようにそのページを見つめた。
昨日、私がわからないと言った部分の答えが、付箋の貼ってあるページでそのまま解説されていたのだ。
ほかの本も確認してみる。
どの本にも同じように付箋が貼られていて、私がわからないと言った問題の基礎の基礎である部分が丁寧に解説されていた。
子供でもわかるように簡単に書かれているおかげで、無理なく理解できる。
改めて読んでみると、どの本も子供向けとはいえ良質な本ばかりだった。
「……アベル様、本当に私がわかりやすいように考えて選んでくれたのね」
本を眺めながら少しだけ反省した。
アベル様は本当に私を馬鹿にしていたわけではなかったのだ。
どうやら、リリアーヌに高等部の教科書をいきなり理解するのは無謀だったらしい。
中等部どころか、初等部まで遡る必要があったみたいだ。
そもそも王立学園の初等部の授業は、現代日本の小学校と比べると結構難易度が高いので、出来の悪いリリアーヌが侮っていいものではなかったのかもしれない。
十六歳の公爵令嬢が、初等部向けの本で勉強するのはどうなんだろうか。
そう思うけれど、私のためにこれらの本を選んで付箋まで貼ってくれたアベル様の姿を想像すると、なんだか胸が温かくなってきた。
「……がんばろう」
本を胸にぎゅっと抱きしめて呟いた。
アベル様のためにも、絶対に目標を達成しようと決意した。




