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「こんな朝早くから一体何の用ですか」
「朝早くって、もう十時だよ?」
「えっ! もう、そんな時間でしたの……!?」
朝起きてすぐにシルヴィにひっぱって来られたので、時計を見ていなかった。どうやら私は随分遅くまで寝ていたらしい。
呆然とする私を見て、アベル様は声を立てて笑う。
それから、ソファの上に置いてあった包みを差し出してきた。
私は首を傾げながらそれを受け取る。
「これは何ですの?」
「学園の授業に関する本。リリアーヌに合いそうな本を集めておいたんだ」
「え……っ」
驚いて受け取った包みに視線を落とした。
わざわざ、そんなことまでしてくれるなんて。
不覚にも少々感動してしまった。
「アベル様、私のために……」
「開けてみて。その辺りの本ならリリアーヌにも無理なく理解できるはずだよ」
私はうなずいて、言われた通り包みを開ける。
中からは、歴史学や経営学、法学などの本が出てきた。どれも昨日私が苦手だと言った教科ばかりだ。
……しかし、なんだか表紙がやけに幼いように見えるのは気のせいだろうか。
歴史の本なんて、まるで絵本みたいだ。
私はその中の一冊のページを捲る。最初のページに書かれている一文を見て、私は憤慨した。
「ちょっとアベル様!! なんなんですの、これ!? 初等部用じゃないですか!!」
「リリアーヌの理解に合わせたら、それくらいがちょうどいいかと思って……」
「馬鹿にしないでくださいまし! 私は十六歳ですわよ!!」
本はどれも初等部用、しかも見た目からして低学年から中学年向けの本ばかりだった。
前世で言うと、小学三、四年生の子が読むような本だ。歴史の本にいたっては一年生の子でも読めるかもしれない。
私は受け取った本でアベル様の頭をバシバシ叩く。
アベル様は腕で頭をガードしながら、ごめんごめんと謝った。
「そんなに怒らないでよ。悪かったって。でも、別にリリアーヌのこと馬鹿にしてるわけじゃないよ。本当にわかりやすいから騙されたと思って読んでみて」
「さすがに初等部用の本なんて読まなくても理解できますわ!」
「じゃあ、持ってるだけでもいいからさ」
アベル様はそう言って、再び私に本を差し出す。
私は渋々本を受け取った。
受け取ってはみたものの、なんだか納得がいかない。




