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「あれ……? 結構頭に入ってくる」
教科書を改めて読んでみて、前回よりもすらすらと頭に入ってくることに驚いた。
先ほどアベル様に言われた通り、実際に領地経営で使うことを考えてみると、今までよりも書かれていることが理解できるのだ。
財務の話は領地の収入の管理に使えそうだなとか。
市場調査に力を入れて需要のある名産品を売り出せたら、領地を豊かにできるんじゃないかしらとか。
そんなことを考えながら読むと、するする頭に入ってくる。
私はすっかり嬉しくなってしまった。
「これはいけるわ! 簡単に十位以内に入れちゃうかも!」
私はうきうきした気持ちで、早速経営学の勉強に取り掛かることにした。
***
翌朝、私はげっそりしながら目を覚ました。
夜遅くまで起きていたせいで、まだ眠い。
「……そんなに甘くなかったわね」
窓からは明るい日差しが差し込み、小鳥は楽しげに鳴いている。
小鳥の甲高い鳴き声が睡眠不足の頭に響いて、なんとも耳障りだった。
昨晩、教科書に書いてある内容を領地経営に当てはめてみたところまではよかった。
しかし、内容が少し難しくなると、イメージだけではどうにもできなくなってしまった。難しい単語やら数式やらが出てくると、理解が追いつかないのだ。
何より範囲が膨大過ぎて、先が見えずに嫌になる。
あと三週間で、本当に成績を上げることなんてできるのだろうか。
これでは十位以内なんて無理だと頭を抱えた。
そのとき、扉を叩く音が聞こえた。
「おはようございます、リリアーヌお嬢様。お客様がいらしゃってますよ」
返事をすると、侍女のシルヴィが軽やかな足取りで部屋に入ってきた。
私は驚いてシルヴィに聞き返す。
「お客様? まさか、またジェラール様がいらっしゃったの?」
「今回は違います。アベル殿下のほうです!」
「アベル殿下……? なんであの人が」
「お嬢様にお渡したいものがあるらしいですよ。アベル殿下はいいですよね、ジェラール殿下と違ってお嬢様を正当に評価していらして! シルヴィはあの方が好きですよ」
シルヴィは機嫌よさそうにそう言って、私に身支度をさせる。
「ちょっと、私まだ起きたばかり……」
「お客様をお待たせしてはいけません!」
シルヴィは有無を言わせず私に顔を洗わせて着替えさせ、応接間までひっぱって行った。
「お邪魔してるよ、リリアーヌ。あ、そのドレス初めて見た! パープルのドレスも似合うね」
応接間に着くと、アベル様がソファで紅茶を飲みながら自宅のように寛いでいた。
アベル様の後ろではメイドたちが和やかな様子で、紅茶のお代わりやお菓子を勧めてもてなしている。
この前、ジェラール様が来たときときの緊迫した空気と対照的だ。




