4-2
「ねぇ、アベル様。アベル様は勉強が嫌になったことはありませんか? いくら真剣に取り組んでも理解できなかったときとか」
「んー、ないかな。大抵、授業で一回聞けば理解できるし」
「ぐ……、ムカつきますわね……。私なんて何度教科書を読んでも暗号にしか見えませんのに……」
私は憎しみを込めて呟く。
すると、アベル様は少々考え込んでから言った。
「あ、でも、全然知らない国の文化史を初めて読んだときは、暗号みたいに感じたことあるかも」
「え、本当ですか?」
「うん。普段そう感じないのはなんでだろ……。その知識が、実際適用されている場面を想像できるからかな。ほら、僕の場合は小さい頃から将来は王族として民を導くよう叩きこまれてきたからさ。歴史でも法律でも、知識が他人事じゃなくてリアルに感じられるんだよね」
「なるほど……」
「リリアーヌも実際使う場面を想像したら頭に入ってくるんじゃないかな」
アベル様はにっこり笑ってそんな風に言った。
実際に使う場面、と頭の中で言われた言葉を繰り返す。
私が成績を上げたいのは、シャリエ家を継ぎたいからだ。
だから、実際に使う場面を想像するとしたら、領主になる場面だろうか。
領主に必要な知識とはなんだろう。
リリアーヌの頭の中にある朧げな知識や、前世で読んだファンタジー漫画で覚えた知識をひっぱり出して考えてみる。
領民を管理したり、インフラを整備したり、あとは経済を発展させたり……?
具体的に考えると余計に難しそうだ。
考え込む私を、アベル様は頬杖をつきながらおもしろそうに見ている。
「まぁ、無理することはないよ。僕が将来リリアーヌの家に婿入りするから、実務は全部やってあげるし」
「勝手に決めないでくださいまし!」
当然のようにそんなことを言ってくるアベル様に呆れて言う。
アベル様は怒る私を見て楽しそうにしていた。
それからしばらく、アベル様に聞かれるまま勉強の進み具合を話したり、私ががんばろうとすると驚いた顔をして止めてくる侍女や取り巻きのことを愚痴ったりしていた。
笑いを押し殺した顔で話を聞いていたアベル様が、ふと窓のほうに視線を向ける。
「なんだか暗くなってきたね。そろそろ帰ったほうがいいんじゃない? 公爵様たちが心配するよ」
「そうですわね。馬車を呼びますわ」
私は馬車を呼ぼうと、鞄から通信機を取り出す。
この世界には簡易式の携帯電話のようなものがあり、連絡はそれで取ることができるのだ。
さすが、漫画の世界だけあって便利だ。
しかし、通信機のボタンを押そうとした途端、アベル様に止められる。




