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「わからない……いくら読んでも暗号にしか見えないわ……」
放課後、私は教室に残って歴史学の教科書を読んでいた。
繰り返し読んでいるのに全然頭に入ってこない。
本当に日本語で書かれているのか疑いたくなるくらいだ。
ちなみに、ここは日本で連載されているWeb漫画の世界なので、人々の話す言葉や本に書かれている文字は全て日本語だ。
それなのに、確かに日本語で書かれているはずの文章が、難し過ぎて全く理解できなかった。
「リリアーヌ様、そんな無理をなさらなくても。まだテストまで三週間もあるじゃありませんの」
「そうですよ、勉強なんて適当でいいじゃありませんか。それより今から街のほうに出て、カフェにでも行きましょうよ」
リリアーヌの取り巻き、ニノンとオデットが話しかけてくる。
侍女のシルヴィといい、リリアーヌの周りには勉強しようとすると止めてくる子しかいないらしい。
「いいえ、私は今回のテストは気合を入れる予定なの。カフェは二人で行ってらして」
きっぱりそう言うと、二人は不思議そうに顔を見合わせる。
それから「リリアーヌ様、どうしちゃったのかしら」なんて話しながら、教室を出ていった。
私は再び教科書に視線を落とす。
次のテストでは絶対十位以内に入るのだ。
前回の順位は、92人中84位というひどいものだったけれど、きっとがんばればなんとかなるはずだ。
教科書と睨めっこすること約一時間。
教室にはもう誰もいなくなっていた。
「うーん、少しは頭に入ったのかしら……」
どうにか十数ページ読んでみたけれど、全然理解できた気がしない。
すると、ドアが開く音がして、よく目立つピンク髪の人影が姿を現した。アベル様だ。
「リリアーヌ! よかった、まだ教室にいたんだ!」
「アベル様。どうして高等部の校舎へ?」
怪訝に思いながらアベル様を見る。
アベル様は機嫌よさそうに私の座る机のそばへ歩いてきた。
「もちろん、リリィに会いにきたに決まってるじゃん」
「そうですか。私は今勉強中なので邪魔しないでください」
「相変わらずつれないなー」
アベル様は拗ねたような顔でそう言うと、勝手に私の前の机に腰掛けた。
「何の勉強してたの?」
「歴史学です」
「へー、捗ってる?」
「う……、全然」
私は正直に答えた。誤魔化す気にもなれないほど、全く理解できていなかったのだ。
私の答えにアベル様は笑う。
「将来公爵家を継ぐなら、歴史はできたほうがいいんじゃないかな」
「わかっておりますわ! だから今必死に理解しようとしているのです!」
「ごめんごめん。そうだよね」
アベル様はなだめるように言う。
年下のくせに生意気だ。
ふと、アベル様は成績が良かったことを思い出す。私は気になることを質問してみることにした。




